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秋葉原ジャパン・クール!(1/4)――典型的末期症状としての「非実在青少年」問題

2010年11月23日9:42PM

(編集部注:以下の記事は『週刊金曜日』2010年5月28日号に掲載しました。東京都が12月都議会=11月30日開会=に再度、東京都青少年健全育成条例の「改正案」を提出することから、筆者である伊東乾さんのご了解をえて、公開することにしました。新「改正案」からは、”非実在青少年”という文言はなくなりましたが、条例案の問題の本質が変わっていないどころか、悪質になっている点があるためです)

「恋に落ちる」という表現は奥が深い。恋愛に限らず人間が感情を持つ全般で、当初私たちはまったく「受身」の存在になるからだ。まるで落とし穴に落ちるように、自分の意にすら反して、私たちは感情を抱く。食べ物の好き嫌いを考えれば判りやすいだろう。幾らアタマで好きになろうと思っても、嫌いなものは嫌いなのが人間だ。ヒトの脳はそのように作られているからだ。また逆に、何であれ一度「あ、萌え」などと惚れてしまったら運のツキ、「恋は盲目」と言うように、私たちは長くその感情に支配されてしまう。(伊東乾、写真撮影/編集部)

 四月の新学期、大学院の講義演習「音響空間情報論」の一貫で、学生たちと東京・秋葉原(アキバ)の町を歩いてみた。そこで目にした無数のアニメやコミック・キャラクターたちを眺めつつ、改めてこの生理的な事実を思い出した。誰しも「自分の嗜好」がある。極論すれば「好き嫌い」によって人格が作られる側面すらある。だがこの「好き嫌い」を心に抱く当初、私たちは決して自分の意思で選択していない。思春期の甘酸っぱい記憶を辿るなら、多くの人が意に反して感情を抱え込み、煩悶した記憶があるのではないか。「アキバ」では多くのオタクたちが嬉しそうにコミックやフィギュアを眺めていた。その好悪感情に理由はない。出合ってしまった、好きになってしまったという「原体験」が彼らを行動に駆り立て、長く支配し続ける。

 正直なところクラシック音楽をなりわう筆者にはアキバに溢れ返るアニメもコミックも、俗に「エロゲ」と呼ばれる18禁のパソコンゲームも全く縁が遠い。たまたまオウム真理教などカルト犯罪被害者救済でご一緒する山口貴士弁護士から「児童ポルノ法」や「東京都青少年健全育成条例」、また「コミックマーケット(コミケ)」規制の動きがあると聞いた。後述するように私は「アキバ」と「オウム」に通底するものがあるように思う。そこで『週刊金曜日』の伊田浩之さんにご相談し、学生たちと一緒にアキバの街やコミック同人誌の展示即売会場を案内して頂くことにした。

     コミック市場は学園祭の賑わい

 有明の東京ビックサイトで開かれた同人誌即売会「COMIC1(コミックいち)」を訪ねた。ここで扱われるコミックの大半はノンプロが自費で作成した成人マンガ同人誌で、露骨な性的表現が少なくない。

「都条例や児童ポルノ法の規制が検討されるマンガ即売会場」は、いったいどんな雰囲気なのだろう……期待して現地に向かったが正直なところアテが外れた。あまりに健康的だったからだ。確かに会場は賑わっている。だがこの賑わいは大学のキャンパス内で見る学園祭と殆ど変わらない、ごく普通の若者の集うお祭りとして、全国どこでも見られるものに過ぎなかった。

「COMIC1」でのブース一つあたりの出店料は五〇〇〇円という。そこで間口一メートル強の机とスペースを一つ借り、多くがノンプロのコミック作家たちが自費出版の同人誌を持ち込む。圧倒的多数の同人コミックは既存の「キャラクター」を借用している。昔で言うなら「鉄腕アトム」や「ウルトラマン」「仮面ライダー」のような誰もが知る有名なキャラクター(キャラ)である。ノンプロのコミック作家は、そうした「有名キャラ」たちに原作とは異なる行動を取らせる。その中に性的逸脱行動が含まれている。もし「赤胴鈴之助」や「リボンの騎士」がアラぬ振る舞いに及ぶなら、私は目のやり場に困るだろう。誰もが知るキャラがさまざまなシチュエーションで行為に及ぶからこそ興奮が喚起される。

 逆に私には「涼宮ハルヒ」「魔法少女リリカルなのは」など今日アキバで有名なキャラクターに馴染みがない。そのため彼らがどんなにアラレもない肢体で現れても、目のやり場には全く困らない。私たちの脳内では記憶と感情が深く関わりあう。「有名キャラ」のように古くからよく知る情報は個人の脳内で記憶に深く根を下ろしている。認知の生理から考えるとき、キャラ同士のセックス描写は知人の私生活の覗き見にも似た面を持つ。

(つづく)

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