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「黒船」は自由の幕開けか、破滅への道か――党を超えて高まるTPP反対の声
2010年11月28日5:26PM
「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)という展望の見えないものでは、農村の未来は壊されてしまうだけだ」
「TPPを受け入れたら、日本の民主党は米国の民主党のようになってしまうだろう」
一一月四日の「TPPを慎重に考える会」で金子勝慶應大学教授が鳴らした警鐘を聞いて、参加した民主党議員はみな驚愕した。
同じ日に、自民党の有志議員約一〇〇名が「TPP参加の即時撤回を求める会」を結成し、「TPPへの参加は農林漁業、地方経済・社会にとどまらず、我が国の多方面における国益を著しく損なう」という決議文を採択している。
奇しくも民主党と自民党が同日に反対集会を開いたTPPとは、二〇〇六年五月にブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポールの四カ国で始まった自由貿易協定で、域内では例外品目なく一〇〇%自由化を実現するもの。現在ではさらに米国、豪州、ペルー、ベトナムそしてマレーシアが参加を決定しており、コロンビアとカナダも今後の参加を目指しているところだ。
TPPについての議論は、一〇月一日の所信表明演説で菅直人首相が参加検討を表明したことが発端だ。これを受けて前原誠司外相は、一〇月八日の記者会見で「積極的に日本も参画するという前提で考えがまとまるように努力していきたい」と述べ、閣僚としては最も意欲的な姿勢を見せている。
一一月一日には経団連が「TPP早期参加を求める」声明を出し、菅政権の後押しをしていた。彼らの頭には経産省の試算があった。TPPに参加しない場合の損失は実質GDPで一〇・五兆円にも上るからだ。当然これに賛同する自民党他の議員もいる。
とはいえ日本がTPPに参加した場合、国産米の九〇%が壊滅して農業は崩壊し、四兆一〇〇〇億円の生産額と七兆九〇〇〇億円のGDPが減少するという農水省の試算もある。多くの民主党議員はこう考える。
「TPP参加は食糧自給率の向上を目指すマニフェストにも違反するし、次期総選挙や来年の統一地方選で農村票が入らない」
こうして民主党内では意見がまっぷたつに分かれてしまう。
四日に開かれた民主党「APEC・ERA・FTA対応検討プロジェクトチーム」ではそうした相反する意見を集約できず、とうとう交渉に参加するかどうかの決定を先送りにせざるをえなかった。
そして政府は九日、「包括的経済連携に関する基本方針」を閣議決定。菅首相は一四日に横浜で開かれたTPPの首脳会議にオブザーバーとして招かれ、参加した。
一方で反対派の動きも活発だ。
同日夕方に急遽開かれた「第四回TPPを慎重に考える会緊急集会」では民主党、国民新党、社民党の重鎮が顔を揃えた。彼らは一様に政府に対して厳しく批判しながら、反対決議を採択している。
「(菅首相は)消費税にしても思いつきで発言した。TPPも国民が知らない間に決められそうだ。国民が丸裸にされる不安がある」(亀井静香国民新党代表)
「政府があるから与党があるのではない。政府が党に先行したことはこれまで一度もない。農業か貿易かの問題ではなく、農業をしっかり守り、貿易もしっかり守るというのが政治だ」(渡部恒三民主党最高顧問)
地方でも、「反対」が根強い。
「地元でTPPについて反対だと言ったら、『お前、こっちへ来い』と自民党側に言われた」とある民主党議員は打ち明ける。
一一日には宮崎県選出の江藤拓衆院議員、川村秀三郎衆院議員が官邸に出向き、TPP反対を申し入れた。江藤氏は自民党、川村氏は民主党所属。地元の利益は党益を超えるのだ。
そんな中で仙谷由人官房長官は六月をめどにTPPへの参加の是非を判断することを表明した。
TPPはしばしば黒船にたとえられるが、この「黒船」が自由な社会の幕開けとなるのか、それとも破滅の道に繋がるのか、まだ見えない。
(天城慶・ジャーナリスト)