元自衛官女性の名誉を傷付けた田母神前幕僚長に謝罪要求
2010年12月10日3:27PM
田母神俊雄前航空幕僚長が昨年出した『自衛隊風雲録』(飛鳥新社)内の記述で、航空自衛隊基地内の性暴力をめぐる国家賠償請求訴訟で勝訴した元自衛官の女性の名誉を傷付けたとして、元自衛官の代理人である佐藤博文弁護士が謝罪を求める文書を送付したと一九日、発表した。
昨年五月に出された本書において田母神氏は、当時係争中であった元自衛官の女性の裁判について「よくある男女間の “いざこざ”のたぐい」「女性は精神的に不安定で、入院した経歴もあり」などと、事実と異なる記述をしていた。
札幌地方裁判所は、提訴から三年余りを経た今年七月、勤務中に泥酔した男性に呼び出された女性が性的暴力の被害を受けたこと、被害を相談した上司たちはきちんと対応するどころか、逆に被害者に退職を強要したことなど、原告側の主張を全面的に認め、国に職場環境調整義務、被害者保護の義務などを果たさなかったとして、五八〇万円の賠償を命令。国は控訴せず、判決は確定している。田母神氏は事件当時、空自トップの航空幕僚長だった。
この本の中における田母神氏の勝手な解釈こそが、長い間女性たちの口を封じさせ、暴力を暴力として認識することを妨げてきた。その上、事件の責任を負うべき地位にいた氏がこのような内容を公表していることは、「職務上知りえた女性のプライバシーにかかわることを公刊しており、自衛隊法で定められた退職後の秘密保持義務に違反する」行為となる。元原告の女性は、裁判が終わった後までも事実と異なる内容が書かれた本が流布していることに、強い憤りを感じている。
佐藤博文弁護士は記者会見で「本の内容は事実と異なり、守秘義務にも反する」とし、謝罪を求める文書について一〇日以内の回答を求めた上で、もし謝罪がない場合は刑事告訴、告発等の法的手続きを取ることを表明した。
暴力装置である自衛隊で、人権が保障されるということがそもそもあり得るのか。
自衛隊員である前に一人の市民たり得るのか、この裁判の波紋はまだまだ収まらない。
丹羽雅代・アジア女性資料センター運営委員