築地・東卸理事長に山崎治雄氏が当選 移転反対派の巻き返しなるか
2011年7月26日6:20PM
築地市場の豊洲移転に固執する石原慎太郎東京都知事にとって、実におもしろくない事態が起きた。六月一七日、組合員七三一事業者を擁する築地市場最大の組合である東京魚市場卸協同組合(東卸)の理事長に、豊洲移転反対派の山崎治雄氏が選ばれたのだ。
これまで東卸理事長は、移転賛成派の伊藤宏之氏が五期一二年にわたって務めてきた。ところが今年一月二八日に行なわれた理事選挙(定数三〇)で伊藤氏がまさかの落選。これで理事長選挙は、移転反対派の山崎氏と賛成派の伊藤淳一氏との闘いとなった。
理事長は理事会での選挙で決めることになっているが、四回も選挙を繰り返したものの、一五対一五のまま決着がつかない波乱の展開となった。その選挙の裏話と移転反対へ向けた決意を、山崎新理事長へのインタビューで聞いた。
「正直に言えば、まさか私が勝てるとは思っていませんでした」
開口一番、山崎理事長は言った。そんな選挙を制することができたのは、相手側の”焦り”とも思える行動がきっかけだったという。
「四月一一日に臨時総代会が開催されたんですが、そこで移転賛成派が理事長選挙を抜き打ち的にやったんです。私たち反対派には選挙をやるなんて通知はなかったので、会が長引いたこともあって帰る総代も少なくなかった。それで選挙をやったときには、総代の定員一〇〇人のうち六八人しか残っていなかった。そして選挙の結果は、伊藤氏が四〇票で私が二五票、白票三でした」
この選挙結果が有効なら、伊藤氏が新理事長となっていたはずだ。しかし、そうはならなかった。
「理事会で決まらなければ総代会にはかることが定款で決められています。しかし、その結果は理事会の承認を得なければ正式な決定とはされないことになっています。もちろん五月二三日に開かれた理事会で、『抜き打ち的な選挙は無効だ』と私は主張しました。私だって知らされていなかった、突然の選挙だったんですからね。
ただ反対するだけでは先に進まないので、再度、総代会で理事長選挙を行ない、その結果に理事会も従う、という提案をしました。その採決をとったら一六対一四で可決された。強引なやり方に納得できない移転賛成派の一人が、こちら側に票を投じたんでしょう」
そして六月一七日に総代会が開かれ、理事長選挙の投票が行なわれた。結果は山崎氏が五二票、対する伊藤氏は四七票、白票一。この日開かれた理事会では、事前に総代会の結果に従うという申し合わせがあったため反対もなく、山崎氏の理事長就任が決まった。
山崎氏に豊洲への移転に反対する姿勢を問うと、「変わらない」と前置きした上で、こう語った。
「東京ガスの工場跡地である豊洲は、(国の基準値の一五〇〇倍の有害物質ベンゼンが検出されるなど)日本最大級の汚染地です。三月一一日の東日本大震災では液状化も起きている。そんなところに生鮮品を扱う市場をもっていこうと考えるのが間違いです。安全を考えれば絶対に賛成できない。東京都は『きれいにできる』と言っているが、納得のいく説明はしていない。私たちも専門家の話を聞いてきているが、完全な対策は無理という意見ばかりです。
それでも都が『安全だ』というのなら、せめて私たち独自の土壌調査くらいさせるべきです。それは絶対やらせない。厳しく監視して、豊洲の泥すら私たちには持ち帰らせないんですよ。移転させて何かあれば、原発事故と同じで都は『想定外』で逃げるに決まっている。とても信用できませんよ」
移転反対派の理事長になって築地市場の雰囲気は変わったか、という質問に、山崎理事長は自信たっぷりに答えた。
「理事長になってから市場内を歩くと、『がんばってください』とあちこちで声をかけられます。これまで賛成派の理事長だったから反対を言えなかった人が多かったんだと思います。私は、命をかけて反対を貫きます」
今月一日、自民党都議の一人が死去し、民主党都議の寝返りで一時優勢だった都議会の知事側勢力が再び劣勢となった。山崎理事長の就任とあわせ、築地移転反対派の巻き返しとなるか、注目される。
(前屋毅・フリーライター、7月8日号)