「全国の悩める自衛隊員にこの判決を」――空自虐待死事件で原告勝訴
2011年8月15日9:53AM
「息子が自殺した原因を自衛隊は『不明』としてきました。裁判でやっと『いじめ』だと認めてもらいました。ゆっくり休めよと、息子の仏前に報告したい」
元自衛官の父が力強い声でとつとつと語る。感極まった支援者がハンカチで目を押さえた。
航空自衛隊浜松基地の整備隊員だった息子Aさん(享年二九)が妻子を残して自殺したのは二〇〇五年一一月。先輩によるイジメに追い詰められたのが原因だとして遺族が起こした国賠訴訟の判決が七月一一日、静岡地裁浜松支部(中野琢郎裁判長)であった。原告の訴えをほぼ全面的に認め、国側に総額約八〇〇〇万円の賠償を命じる原告勝訴だった。冒頭は判決後の記者会見での光景である。
自衛隊員の自殺をめぐる国賠訴訟の判決は、これまで海自護衛艦さわぎり事件(長崎地裁佐世保支部で原告敗訴、福岡高裁で逆転勝訴)や、同護衛艦たちかぜ事件(横浜地裁で原告一部勝訴、東京高裁で係争中)がある。いずれも遺族に対する数百万円の慰謝料を認めたもので、金額的には訴訟経費にも満たないのが実態だった。今回の判決は、故人が死亡しなかった場合に得られただろう逸失利益も認定しており、実質的な国の賠償責任を認める初の判例となった。
原告弁護団長は塩沢忠和弁護士、国側指定代理人は吉田俊介訟務検事らが務めた。
Aさんが日常的に暴力や暴言を浴びていたことは裁判を決断する前から明白だった。だが、空自第一術科学校(福井正明空校長+当時)は内部調査で、「いきすぎた指導」であったとして「いじめ」を否定。先輩隊員に対する停職五日の処分で幕引きを試みた。訴訟後は「息子さんの能力が低かったため熱心に指導した結果」(趣旨)などと執拗に反論した。自衛官だった父に憧れて入隊した息子を貶められ、遺族は傷ついた。
入廷前から涙がとまらなかった母親は判決後、こう語った。
「勝っても負けてもつらいのは一緒です。提訴から三年あまり、自衛隊の自殺者は減るどころかまったく改善していません。全国の悩んでいる隊員たちにこの判決を早く届けたい」
控訴期限は七月二五日。常識的にみれば国に勝ち目は薄く、争う意味もないはずだ。
(三宅勝久・ジャーナリスト、7月15日号)