社長出勤拒否まで起きた老舗出版争議の和解成立――新生三一書房が営業を開始
2011年9月2日3:22PM
長く品切れとなっていた樋口健二さんの『原発被曝列島』が、八月二四日、新装改訂版として出版された。若狭、泊、下北から台湾まで、被曝者と原発労働を追ったルポに、3・11後を描く渾身の書き下ろしが加えられている。
同書の版元の三一書房は、『人間の條件』(五味川純平著)などで知られる老舗出版社だが、一九九八年、三一労組(組合)役員らの解雇などを機に第一次争議が勃発した。
争議は解決し、二〇〇六年、解雇された組合員らは職場に戻った。だが〇九年春、先の争議中に「スト破り」業務のため関連会社で雇用した編集者・高秀美さんが組合に加入したことに対し、岡部清社長が「報復」を宣言。彼女から仕事を取り上げ、賃金支払いも止め、第二次争議が起きた。
それから二年余。岡部社長は会社に姿を見せず、新刊発行も停止。組合の小番伊佐夫委員長は、「原発の危険性に警鐘を鳴らしてきた三一が、福島原発事故が起きたこの状況下新刊も出せず、悔しかった」と振り返る。
組合は出版労連などの支援で賃金支払い仮処分決定や、団交拒否に対する東京都労働委員会の救済命令を獲得。心ある出版人の仲介もあって岡部社長との交渉が進み、八月一一日、争議を解決する和解が東京地裁で成立した。
和解内容は、旧三一書房の積極財産(取次口座、在庫など)は、組合員らが設立した新社が継承。「三一書房」という社名も引き継ぐ。負債は旧社(岡部代表取締役)が継承し、組合に解決金を支払う。履行後、組合は残る労働債権を放棄する――など。事業譲渡は、三一書房株主総会でも承認された。
新生三一書房は、奇しくも、「脱原発」を掲げた城南信用金庫・九段支店の隣に事務所を構えて営業を開始。消えかかっていた社会派出版社の灯が、多くの人々の支えで、輝きを取り戻した。
三一書房の再生は、倒産に近い状況から組合が主導し「事業譲渡」のスキームを使って働く場を確保した事例としても注目される。
新社の取締役になった高さんは、「この二年、出版社にいながら本が出せないことが辛かったが、ようやく出発点に立てた。出すべき本を出せる喜びは、何ものにも換え難い」と話している。
(北健一・ジャーナリスト、8月26日号)