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【中島岳志の風速計】 「独裁」を許す土壌
2011年9月21日12:51PM
政治に対するシニシズムが蔓延している。震災復興はもたつき、原発事故では正確な情報が開示されない。国民は政府を信用することができず、不安ばかりが拡大する。
原発事故の影響を判断するためには、極めて高度な科学的知識を必要とする。当然ながら、国民の多くはそのような知識を有していない。メディアでは「大丈夫」「問題ない」という言葉を繰り返す専門家と、危険性を指摘する専門家が、双方もっともらしいことを語っている。そんなこと言われたって、何を信用すればいいのかわからない。判断する正確な根拠すら、私たちの手中にはない。
政府の出す情報は信用できず、東電も信用できない。大手メディアも疑わしい。「私たちは何を知らされていないのか」が不透明なのだ。
結局、いま我々の目の前に広がっているのは究極の自己責任社会である。自分や家族の身を護るためには、高度な科学技術の知識を身につけ、ネットなどで情報を収集しなければならない。毎日、風向きをチェックし、放射能の数値を気にしなければならない。行政が発表する数値は信用できないため、ガイガーカウンターを使って自分で家の周りを計測しなければならない。
しかし、このような過度の負担を背負い込んでいると、次第に生活が疲弊してくる。不安にはきりがなく、情報にもきりがない。とにかく疲れる。厭になる。もうこんな生活から解放してほしい。政治が強い決断力と正義を発揮して、一気に決着をつけてほしい。この閉塞感を取り払ってほしい。
そんな気分が蔓延してくると、人々の間にはどうしても救世主待望論が拡大する。政治に対するシニシズムは、同時にカリスマ的なリーダーに対する期待感へとつながるのだ。
大阪府知事の橋下徹氏は、「今の政治に必要なのは独裁」と公言した。橋下氏の政治スタイルは既得権益バッシング。彼の中では、日教組も電力会社も大阪市も同列の存在である。旧勢力をすべて「敵」とすることで自らの改革者としてのイメージを膨張させ、政治を支配していこうとする。
今のような状況が続くと、必ず悲劇を引き寄せる。テロや独裁を呼び込みやすい土壌が形成されていると警戒すべきだ。一一月の大阪市長選挙は、今後の日本を左右する選挙になるだろう。
(7月29日号)