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TPP拙速議論に反対の声が高まる一方……――推進派・米倉経団連会長は利害関係者
2011年11月7日6:53PM
「APEC(アジア太平洋経済協力会議)でのTPP(環太平洋戦略経済連携協定)参加表明ありき」という野田政権の”亡国”的な姿勢が明らかになる中、TPP反対の動きが活発になりつつある。
二四日、全国農業協同組合中央会(JA全中)の萬歳章会長らがTPP交渉参加に反対する一一六七万人分の署名の一部を持って首相官邸を訪問し、「農業再生と(高いレベルの)経済連携は両立できない」と訴えた。二六日にTPP反対の決起集会、一一月八日には国民集会を開く予定だ。「TPPを慎重に考える会」会長の山田正彦・前農林水産大臣も二三日のテレビ番組で、「(米韓FTAが進む)韓国を視察したが、農家が壊滅的な打撃を受けた」として、高いレベルの経済連携に対し警告を発した。
しかし政府与党の幹部は、根拠不明瞭な楽観論に終始。たとえば、二四日の記者会見で輿石東幹事長は、「農村部を切り捨てるという小泉政権時代の政策に戻るのか」との問いに対し、こう答えた。
「全国幹事長、選挙責任者会議の中でも(同じような指摘が)出てきました。『地方をダメにし、日本の農業をダメにするのが民主党、野田内閣ではないか』という見方があります。『TPP問題を契機に日本の農業が壊滅的な状況になるだろう』『絶対に認められない』という萬歳会長以下のJAの皆様のご心配があるのは確かですが、だからなおのこと、日本の農業のチャンスとしたいと捉え、農業政策をどうするのかということを課題に議論を深めています」
そこで「再生計画ができて、『日本の農業は大丈夫だ』との(関係者の)合意が得られてから参加表明を決めるのか」とも聞いたが、輿石氏の回答は理解困難だった。
「農業政策がこういうものであれば日本の農業は再生する、というものがあれば、半世紀以上、日本の農業はもう少し何とかなっていた」
TPPに参加表明をした途端、半世紀以上もできなかった農業強化策を作り出すことが可能となるのだろうか。山田前農水大臣は、首を傾げる。「米国は平均農家一戸当たり一九三ヘクタール。豪州ではさらに一戸の農家が三〇〇〇ヘクタールを耕し、飛行機で種子から肥料や、農薬までも散布。日本では、広大な土地に恵まれている北海道でも、集約できる農地は三〇から四〇ヘクタール。これで価格面で競争できるわけがない」。
これだけ農地規模の違いがあるのに野田政権は、TPP参加が打ち出の小づちのような役割を果たすと期待して、日本の農業の存亡をかける”実験”を始めようとしている。圧倒的な国力の差を無視して日米開戦に踏み切った戦前の軍部と二重写しになってくる。
TPP参加表明を軽く考えているのは、前原誠司政調会長も同じだ。二三日のNHKの討論番組で「(TPP)交渉に参加をして、それが自らの国益に全然そぐわない、違うものだったら、撤退はありうる」と発言した。しかし本誌一〇月二一日号拙稿で指摘した通り、交渉に参加して途中で抜けた事例は過去に一度もなく、ジェーン・ケルシー教授は「協定からの脱退は企業や外交の面で色々な問題が生じるので、事実上難しい」と指摘(先週号)。また藤村修官房長官も、福島みずほ社民党党首との会談で「一般論としては外交交渉だから離脱はできる」としながらも「日米関係は重要だ」と指摘し、実際は困難だとの認識を示した。
現実問題として途中離脱ができるのか否かは、TPP参加表明前の議論をどこまで深めるのかに直結する。それなのに野田佳彦首相は、政権与党幹部の見方がこれだけ食い違っている中、議論を集約しようとしている。こんな状態でもTPP参加表明をすべきと訴えているのが米倉弘昌経団連会長(住友化学工業会長)だが、川内博史衆院議員(民主党)は「TPPの懸念材料の一つが遺伝子組み替え作物の表示問題。住友化学は(穀物メジャーの)米国モンサント社の日本におけるエージェントで、米倉氏は利害関係者」と指摘する。
一部の日米大企業の利益のために農業などの国内産業に大打撃を与えるのがTPPの本質なのだ。
(横田一・フリージャーナリスト、10月28日号)