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【イタリア】脱税と税の未徴収が財政危機の最大要因――市場の暴走を新政権は制御できるか
2011年11月29日6:07PM
イタリアの抱える債務残高は一兆九〇〇〇億ユーロ(約二〇〇兆円)。米、日、独に次ぐ世界第四位の規模だが、ギリシャに端を発した欧州ユーロ危機を拡大させかねない、というEU(欧州連合)各国の危機感が先週末、ついにベルルスコーニ首相を退陣に追い込んだ。
相次ぐスキャンダルや裁判沙汰で恥辱に耐えてきた同国民の大半は、さしあたり歓声を上げている。
同氏に代わって財政再建という難題に取り組むのは、先日、終身上院議員に任命されたマリオ・モンティ元欧州委員会委員。経済学者でEUを最重要視する人物だけに、国際市場からは歓迎され、危機打開の手腕を期待する声も。
だが、そもそもこの「危機」は、ギリシャの場合に言われるような公務員の多さと特権、放漫財政に起因するものなのか。そして、打開策は、いわゆる行政サービスの削減などが主眼となる緊縮財政策以外にないのか。
長年、イタリアでフェアトレード普及に尽力してきた経済・環境ジャーナリスト、アルベルト・ゾラッティ氏に聞いた。
――財政危機の最大の原因は?
年二〇〇〇億ドルに上るとも言われる脱税と、税の未徴収だろう。GDP世界第八位であるイタリアの産業を支えているのは中小企業。しかしそこから生み出される富を再分配する仕組み、税制の厳格さが欠けているために、芸術や自然の豊かさ同様、この国が誇れるはずの富は活かされていない。
こうした状況下で、倫理を失った投機の暴走が蔓延。もはや規制のなくなった市場が戦後最悪の世界的な危機をもたらした。そして、世界のリーダーたちの政策は、富を再分配するどころか、少数の富める者を貧しい大多数から守ることにのみ腐心し、危機に追い打ちをかけている。
――EUの機能的役割は。
世界的金融危機が、ついこの間まで安全圏とされていたEUにも波及したのは、この地域が真の共同体というよりは共通の通貨を用いる地域にすぎず、規則や機能面での統一性を持たないからだ。
もしそうした政治的、制度的な統一性が存在していたなら、莫大な規模の脱税や汚職等、深刻な課題を解決する能力のないベルルスコーニ内閣にこれほど延命を許したりはしなかったはずだ。
――EUの求める財政再建策は有効か。
脱税や非申告収入、汚職などの構造と、膨張し続ける軍事費、無駄な公共事業にメスを入れ、これまでどんぶり勘定だった失業保険と年金システムを分割するとともに富裕層からの税徴収を徹底する。こうした政策が必要だったのは、明らかだ。
今回、金融市場と欧州中央銀行(ECB)の要請でEUが介入するに至ったのは、なすべき改革を怠ってきたイタリア政府の実行力のなさの代償だと言える。
危機は、対応策次第で改善と変化への好機になり得るものだと思う。だが、EUの求める財政再建策はあくまで市場の要請に応えるためのものにすぎない。労働市場の安定を破壊し、農地や水など公共の資源を民間に払い下げ、医療など社会の基幹サービスを管轄する地方公共団体への財源をカットするといった形をとるだろう。
本来なら財政の危機は行政内部の可視化によって乗り越えられるべきなのに、「節約・緊縮」が大義名分となり、一般市民の生活を危うくしかねない施策を通すためのアリバイに利用されるのだ。まさにナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』(=大惨事につけこんで実施される過激な市場原理主義改革)の実践になりかねない。すでにイタリア社会の格差は過去五〇年で最悪のレベルに達しているのだ。
――マリオ・モンティ新内閣に期待できるか。
マリオ・モンティは、真面目な欧州主義者で、ドイツ連邦銀行の指針と完全にマッチする立場の持ち主だ。つまり、市場の最優先なのだ。だが、市場の過去二〇年間の歴史は失態の連続だった。はたして彼は、その歴史から何かを学んだのだろうか。
(齋藤ゆかり・在イタリア翻訳家、11月18日号)