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土壌汚染「解決」でなく、「見たくない」思惑――警戒区域の調査を避ける文科省
2011年12月20日9:09AM
一二月一日付『朝日新聞』が、「東京電力福島第一原発から半径一〇〇キロ圏内の土の中に放射性セシウムがどこまで浸透しているかを政府が調査した際、半径二〇キロの警戒区域を調べていなかったことがわかった」と報じている。
この調査は除染作業に役立てるため、東京大学や大阪大学など九四機関の協力で、今年六月から約一カ月間かけて行なわれた。福島第一原発事故で放出されたセシウム137の半減期は約三〇年で、同じ放射性物質であるヨウ素131の約八日に比べても格段に影響を与え続ける期間が長い。それだけに厳密な調査と、それに基づく念入りな除染が必要とされる。
にもかかわらず、調査を行なった文部科学省は警戒区域を対象から外していたのだ。警戒区域は事故を起こした原発に近く、それだけ汚染もひどいと予想されため、いっそうの調査と除染作業が必要とされるはずだ。文科省はまったく逆のことをやっていた。
そもそも福島第一原発事故発生以来、問題の本質から目をそらし、過小に評価したがる姿勢が文科省には目立つ。福島県内で校舎・校庭利用を許可する放射線量の基準を年間二〇ミリシーベルトとし、「あまりにも高すぎる」と大批判されたのは、その典型といえる。
その「二〇ミリシーベルト」問題では、文科省は原子力安全委員会の助言が根拠であると説明していたが、原子力安全委員会は否定。国会議員の面前で両者が “大人げないケンカ” を演じる醜態までさらしている。
さらに、東京都内でも住民による自主的な放射線測定が広まりつつある中、本誌の取材に対して文科省原子力災害対策本部事務局(EOC)は、「東京は心配するレベルではない。福島県外で安全基準を示す予定はありません」と断言した。しかしその後、東京都内では次々とホットスポットが発見され、大きなニュースとなっている。
都内のホットスポットについては、住民からの要請に抗せなくなって独自に放射線測定を実施する区も少なくない。とはいえ、その調査も細かく行なわれているわけではない。一つの学校について校庭の中心や砂場など、数カ所を測定しているにすぎない。
その理由を、ある区役所の担当者は「ホットスポットを探しまわることになって、作業にキリがありません。それだけの人手も予算もありません」と説明する。そして住民が自主的に除染作業をやることについても、「一カ所でやると、飛び火して際限がなくなります」と否定的だ。
いくら住民が自主的にやるといっても、それを区が黙って見ているだけ、というわけにもいかない。実際に除染作業をやるとなれば、それだけの人手と予算が必要になってくる。
「つまり、余計な人手や予算はかけたくないのが本音。それは、文科省とて同じはずです」
除染問題を取材するあるジャーナリストはこう説明する。
二〇ミリシーベルト問題も同じところに根がある。学校利用の基準を厳しくして学校が使えなくなれば、子どもたちや教員を他に移動させなければならない。その手間や費用は莫大な額にのぼるはずだ。さまざまな責任も発生することになる。
「それらをすべて回避するためには、基準を甘くしておく必要があったんです。基準以下なら人もカネも必要ありませんからね」(前出のジャーナリスト)。
今回の警戒区域での放射性セシウム未調査問題についても、同じ見方ができる。調査をすれば、高いセシウム値が発見される可能性は高い。その対策には人手も費用もかかるだろうし、国や自治体が躍起になっている住民を元の家に戻すというプランにも大きな障害になるはずだ。できれば “蓋” をしておきたい文科省の気持ちもわからないではない。
とはいえ、それが人の健康に害をおよぼすことになれば元も子もない。自己防衛も大事かもしれないが、行きすぎると害毒にしかならない。文科省をはじめとする役所には、自己防衛より住民の安全を最優先する発想を期待したい。
(前屋毅・ジャーナリスト、12月9日号)