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武力行使容認の「PKO参加」閣議決定の見通し――憲法改悪に繋がる南スーダン派遣

2012年1月10日4:25PM

 アフリカ北東部にある南スーダンの国連平和維持活動(PKO)への自衛隊派遣が、一二月二〇日の閣議で決定される見通しとなった。「南北内戦が続いた地域に危険はないのか」「どのような活動をいつまで行なうのか」。国民が活動を知る場でもある国会での論議は驚くほど少ない。

 その理由は明快だ。自民党政権に対抗して自衛隊海外派遣にブレーキをかけ続けてきた民主党が政権党となり、「頼りになる政権党」を演出したいのか「積極的なPKO参加」を打ち出しているからである。自民党は当然、派遣に反対しない。国会では通過儀礼程度の論議さえ行なわれなくなった。

 自衛隊のPKO派遣は、民主党政権になって二カ所目になる。最初に派遣されたのは中米のハイチだった。二〇一〇年一月に起きた大規模震災に国際緊急援助隊として自衛隊の医官などを派遣したのに続き、翌月にはPKOに陸上自衛隊の施設部隊を送り込んだ。現在も三三〇人の隊員が道路補修や敷地造成を続けている。

 自衛隊のPKO参加には、(1)停戦合意の成立、(2)紛争当事者による派遣合意、(3)活動の中立性、(4)以上のいずれかが満たされない場合の撤収、(5)必要最小限の武器使用、の五原則を満たす必要がある。

 だが、南スーダンPKOは貧しさから国家が崩壊するのを予防するためのPKOに当たり、紛争当事者は存在しない。ハイチPKOも同様である。PKO協力法第三条一項は「紛争当事者がいない場合、派遣先国の同意」と規定しており、(2)は必要条件ではない。こうした事実を多くの国民は知らないのではないか。

 問題なのは、より重大な事実が伏せられていることである。PKOは国連憲章の六章「紛争の平和的解決手段」と、武力行使を認めた七章「集団安全保障」の中間にあり、「六章半」の行動と呼ばれてきた。しかし、一九九九年に七章を根拠にした強制行動を伴うPKOの概念が打ち出され、同年以降、新たに始まった一六カ所のPKOのうち一三カ所までが「七章にもとづく行動」を明記し、参加部隊の武力行使を容認している。

 南スーダンPKO、ハイチPKOとも民間人保護や任務遂行の妨害を排除するための武力行使が容認されている。発砲の危険性が高いのは、最前線で兵力引き離しや停戦監視を行なう平和維持軍(PKF)であるとはいえ、武力行使が容認されたPKOへの参加をめぐり、憲法九条との整合性を問う必要があるだろう。

 自衛隊はどのような活動を計画しているのか。国連はスーダン国境に近いマラカルでのインフラ整備を求めていたが、スーダンとの武力衝突が起きるため、陸上自衛隊が断り、首都ジュバでの活動に落ちついた。ジュバの水運に使われているナイル川までの道路を舗装し、日本の政府開発援助(ODA)で国際協力機構(JICA)が行なう港湾工事と結びつける「軍民一体化」したインフラ整備が想定されている。

 活動期間は過去最長の五年となる見通しだ。治安情勢の変化に対応するには、長くとも一年程度の実施計画とする必要があるが、前のめりの野田政権は隊員の安全より、自衛隊派遣の成果を優先させるというのである。

 不安材料はまだある。今年七月、政府の「PKOの在り方に関する懇談会」は中間とりまとめを発表。「検討すべき課題」としてPKO参加五原則や参加すべき分野、武器使用基準の見直しを列挙した。つまり、停戦合意のない紛争国への派遣や武器使用の危険性が格段に高まるPKFへの参加、武器使用の緩和を検討するという。憲法や現行の憲法解釈では参加困難な分野に自衛隊を送り込み、危険だからと武器使用の緩和を主張する。その主張の先には、間違いなく憲法改定が待ち受けている。

 自衛隊が南スーダンに派遣される五年間にPKO参加のあり方が変わり、武器使用基準が緩和されるかもしれない。もとより武力行使が認められた南スーダンPKOである。海外における「初めての一発」は、意外にあっけなく発射されるかもしれない。

(半田滋・『東京新聞』論説委員兼編集委員、12月16日号)

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