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米国に振り回され日本政府が陥った袋小路――米議会が海兵隊グアム移転費を削除
2012年1月16日6:42PM
米議会は一二月一二日、二〇一二年度米国防権限法案から在沖海兵隊グアム移転費を全額削ることで合意した。米国史上最悪の財政赤字を抱える中で、移転費の総額が当初の見積もりを大幅に上回り、具体的な移転計画が示されていないことなどが理由だ。
パッケージとされる普天間飛行場の移設を進展させるよう米政府から要求され、日本政府は環境影響評価(アセスメント)の評価書を今年中に提出することを約束していた。しかしここにきて、停滞の続く普天間移設問題は、年末まで残り二週間を切ったところで新たな局面を迎えることになった。
グアム移転費の削除を受け、藤村修官房長官は一三日の記者会見で「評価書は年内に提出する」と改めて政府方針を強調し、米政府も歩調を合わせて「日本政府の決断を歓迎する」(フロノイ国防次官)と声明を出した。移設作業はこれを機に再開するが、同時に波乱の始まりをも意味する。
沖縄県内の関係市町村は、普天間移設とリンクするグアム移転が暗礁に乗り上げたことについて「辺野古移設も白紙撤回だ」と日米合意の破綻を声高にし、アセス再開に反発した。仲井眞弘多知事は「県内移設は不可能」との姿勢で一貫しており、県議会はすでに一一月の段階で評価書提出反対の意見書を可決した。
評価書が提出されると年明けの公告・縦覧を経て、来年六月頃に知事に対し辺野古沖の公有水面の埋め立て承認が申請される。だが、そんなことをすれば、沖縄が島ぐるみで反対するのは火を見るより明らかだ。
六月は県議選の時期と重なり、県内移設反対の意思表示は今後ますます顕著になるだろう。こうした沖縄の空気を読みとる日米政府は、このまま沖縄の反対が続けば普天間が固定化すると警告し、沖縄に脅しをかける。しかし固定化が現実となれば、県民から一層の反発を買うだけだ。政府が陥ったこの袋小路は、辺野古にこだわっている限り脱け出す手立てはない。
では、日米合意が行き詰まると沖縄やグアムの軍事的位置づけはどうなるのか。
オバマ大統領は一一月、オーストラリアに米海兵隊二五〇〇人を本格駐留させる方針を発表した。アフガニスタン、イラクからの撤退に併せ、その軍事力をアジア太平洋にシフトさせる新しい戦略の一環だ。在沖米軍グアム移転計画も当初、対象部隊は司令部機能のみだったが、一部の実戦部隊も移して兵力を分散する方針に転換した。これも新戦略を反映させたものだ。背景には中国の軍事力増強がある。中国の弾道ミサイルの飛距離が向上し、その射程内には沖縄やグアムが含まれる。「近すぎる」ことはリスクにもなりえることを示している。
また、基地機能を一極集中させれば、弾道ミサイルの格好の標的となり、壊滅的な打撃を受ける危険性がある。米軍展開はアジア太平洋の幅広い地域に兵力分散し、中国を遠巻きににらむ方向へと移りつつある。もちろん、沖縄が軍事的に重要かと問われれば、重要だと米政府は答えるだろう。だが新戦略にのっとれば沖縄と同様グアムも重要、日本本土も重要、オーストラリアも重要、ハワイも重要、アジア太平洋地域はどこであっても重要なのだ。
アジア太平洋地域での次なる戦略に着手した米政権は、来年一一月の米大統領選までの残りの期間を内政中心に費やすだろう。外交課題で揚げ足を取られられないよう普天間問題は日本国内の問題として傍観したいはずだ。
とはいえ、来春からは次の国防予算の審議が始まる。また今回と同じように、米議会が再編計画の遅れを指摘し、米政府が慌て、日本政府に対応を要求するのだろうか。何の展望もシナリオもなく言われるままにアセス手続きを再開した日本政府は、次もまた米側にせかされて作業を進めるのだろうか。取り繕いの移設作業は、日米合意を表面的に“実現”に近付けるかもしれないが、大局的には地元との溝を深めるだけで、“現実”からはますます遠のいていく。
(与那嶺路代・『琉球新報』記者、12月23日号)