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【宇都宮健児の風速計】 危険な秘密保全法制定の動き
2012年3月14日7:21PM
二〇一一年八月八日、「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」は、秘密保全法制を早急に整備すべきである旨の報告書を発表した。この報告書を受けて政府の情報保全に関する検討委員会は、今年の通常国会に秘密保全法案を提出する準備を進めてきている。
政府が検討している秘密保全法は、国民の知る権利や報道の自由・取材の自由を侵害するなど、憲法上の諸原理と真正面から衝突するものである。
秘密保全法を検討するきっかけとなったのは、尖閣諸島沖中国漁船衝突映像の流出問題であるが、この映像流出は国家秘密の流出と言うべき事案とはとても言えないものである。
秘密保全法では、規制の鍵となる「特別秘密」の概念が曖昧かつ広範であり、本来国民が知るべき情報が国から隠されてしまう懸念がきわめて大きい。また罰則規定に、このような曖昧な概念が用いられることは、処罰範囲を不明確かつ広範にするものであり、罪刑法定主義等の刑事法上の基本原理と矛盾抵触するおそれが大である。
禁止行為として、漏洩行為の独立教唆、扇動行為、共謀行為や、「特定取得行為」と称する秘密探知行為の独立教唆、扇動行為、共謀行為を処罰しようとしており、このままでは単純な取材行為すら処罰対象となりかねないものである。
このような法律が制定されると、取材および報道に対する萎縮効果がきわめて大きく、国の行政機関、独立行政法人、地方公共団体などを取材しようとするジャーナリストの取材の自由・報道の自由を不当に制限することになりかねない。
今から二七年前の一九八五年、当時の中曽根政権下でスパイ防止に名を借りた「国家秘密法案」が国会に提出されたことがあったが、このときはこの法案が国民の知る権利と民主主義をないがしろにする法案であると世論から大きな批判を受け、反対運動の高まりによって結局廃案となった。今回の秘密保全法案は国家秘密法案の再来と言えるものである。
沖縄密約事件、原発事故情報隠し、尖閣諸島沖中国漁船衝突事件などに見る政府の対応からすると、政府が今すぐ着手すべきなのは秘密保全法制の整備ではなく、情報公開の徹底である。
(2月17日号)