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【田中優子の風速計】 猿の惑星を作ろう
2012年3月16日6:26PM
原発稼働の是非を問う住民投票を行なうための条例案が、東京都議会に提出される可能性が出てきた。必要な数の署名が集まる見通しになったからだ。そこで二月一〇日の知事会見で出た石原慎太郎の「サル」発言が俄然注目を浴びている。「そんなもん条例作れるわけないでしょ。作るつもりもないよね」から始まって、「原発に反対するのはサルと同じだ……これは結局人間の進歩というのを認めないまま、人間がサルに戻る事です」と。この……の間では、ストーカー殺人の事例を挙げて意味不明の事を言い、つまり「人間はセンチメントであってはいけない」と主張しているようなのだが、論理が破綻していて要約できない。
このサル発言に対し「俺たちはサルじゃない」という反発もある。しかし私はサルで結構。「抜群にセンチメント(情緒豊か)な猿の惑星を作ろうぜ!」と呼びかけたい。ところでサルの件は石原の言葉ではない。この人は、責任はそちらに行くように他人の言葉を利用してコメントする人なのだ。今度は吉本隆明が利用された。
『週刊新潮』二〇一二年一月五・一二日号に出たインタビューで、要約すると「文明の発達とは失敗と再挑戦の繰り返し」「我々が今すべきは原発を止めることではなく完璧に近いほどの放射線防御策を講じること」という意味のことを吉本隆明は言った。その中で、脱原発は「人間が猿から別れて発達し今日まで行なってきた営みを否定すること」というサル発言が出てき、これが石原の気に入ったようだ。これで脱原発を主張する人は全員サル、ということになった。めでたい。「猿の革命」はもうすぐだ。
しかし年をとるとはこういうことなのかと、私はそちらが怖くなった。覚え込んだいくつかの言葉、たとえば「科学」「進歩」「文明」に固執しそれを繰り返すのは、思考力が無くなっているからだ。起こった事態に面と向かい新しい対応を模索する、という頭脳の弾力が無い。「バカの一つ覚え」とはこのことである。昔のことは覚えているが最近のことは忘れる、という高齢者の病も疑われる。
原発賛成派は、新しい現実を受け容れられず発想の転換ができない立派な「人間」である。今回のサル事件は、還暦を迎えた私への、そういう年の取り方をするな、という警告と受け取った。せっかく還暦なのだから、サルまで戻ることにする。
(3月2日号)