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市民が求めた政策を実施した元市長に損害賠償請求――「地方自治問う裁判」と上原公子氏

2012年4月5日6:13PM

「市の主張は首長に仕事をしない口実を与えかねない」と語る上原氏。(撮影/小石勝朗)

 東京都国立市の元市長、上原公子さんが、国立市から損害賠償を求める訴訟を起こされている件で、第一回口頭弁論が三月八日、東京地裁で開かれた。市長在職中の高層マンション建設問題をめぐり、市が業者に支払った賠償金を負担するよう迫られている。請求されているのは三一二三万九七二六円。上原さんは全面的に争う構えだ。

 発端は、上原さんが市長に就任した一九九九年。JR国立駅から延びる大学通り沿いに、明和地所による高さ四四メートル(一四階建て)のマンション建設計画が浮上した。国立市は、景観を守るため沿道の街路樹を超えないようにするとして、建物の高さを二〇メートル以下に制限する条例を制定して対抗した。

 明和地所は損害賠償を求めて市を提訴。上原さんによる営業妨害と信用毀損の行為があったとして二五〇〇万円の賠償が認められ〈判決1〉、市が二〇〇八年に遅延金を含めて支払ったのが、今回請求されている三一二三万九七二六円だった。

 これを受けて、一部の市民から後任の関口博・前市長に対して同額を上原さんに請求するよう求める訴訟が起こされ、一〇年末の一審で請求が認められる〈判決2〉。市側は控訴したものの、昨春の市長選で関口さんを破った佐藤一夫・現市長が控訴を取り下げたため確定した。しかし、納得できない上原さんは支払いに応じず、市が提訴したのが今回の裁判である。

「上原個人の裁判ではないと思っています」

 八日の口頭弁論で意見陳述した上原さんはこう切り出した。「地方主権時代の首長のあり方を問う裁判」と位置づけ、もし敗れれば「自治体首長を萎縮させ、市民自治を進める首長の存在は困難になる」と懸念する。

 上原さんはマンション問題をめぐる当時の対応について、「民意を受けてやってきたことで、決して独裁やパフォーマンスではなかった」と振り返る。マンション計画に対して高さ制限の条例化を求めたのはこの地区の住民で、地権者の八二%の同意書が添えられていた。「高層マンション建設見直しの陳情」には約五万人、「早期の条例化を求める要望」には約七万人が署名を寄せた。

「まさに市民の総意と言えるもので、むしろ取り得る手段を取らないと不作為の責任を問われる状況だった」(上原さん)

 高さ制限条例の制定にあたっては、審議会に諮ったうえで、当然ながら市民の代表たる市議会の議決も受けた。〈判決1〉も「条例の内容自体については、その違法を問うことは困難」「制定の手続き的に大きな瑕疵があるということはできない」と述べている。

 こうした事実から、市長個人の責任を問われるのはおかしいと主張する。

〈判決1〉で敗訴した国立市に、実質的な損害が生じていない点も強調している。勝訴した明和地所は「訴訟の目的は業務活動の正当性を明らかにするためだった」として、国立市から受け取った賠償金と同じ額を市に寄付しているからだ。

〈判決2〉はこれを「一般寄付」と捉え、「賠償金を実質的に補填する趣旨とはいえない」として、上原さんへの市の求償権は消滅しないと結論づけた。しかし上原さんは、(1)一般寄付なら通常は特別の基金をつくるのにそうはせず、支払う時に支出した財政調整基金に戻している、(2)〈判決1〉が明和地所に支払いを命じた訴訟費用の債権を国立市が放棄したのは、同社の寄付が実質的な賠償金の返還にあたることを前提とした相殺だったからだ――などを挙げ、求償は二重取りになると主張する。

 このマンションをめぐる国立市民の運動が景観法制定のきっかけになり、地元住民が起こした別の訴訟が「景観利益は法的保護に値する」という最高裁の初めての判断を引き出した。「景観問題は私にとって自治の象徴だった。これをつぶされることは市民の自治をつぶされるのに等しい」と力を込める上原さん。手弁当で参加する三〇人近い弁護士の支援を受け、八年間にわたり行政を担った国立市との闘いに臨む。

(小石勝朗・ジャーナリスト、3月23日号)

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