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『COMIC LO』販売停止でアマゾンに求められる自覚
2012年5月21日6:28PM
三月、ネット書店の最大手・アマゾンが、ロリコン漫画誌『COMIC LO』(茜新社)の販売を、突然停止する騒動が起こった。原因となったのは、一人の女性が「児童ポルノを一切売らないよう、アマゾン社長に直接メールを送りましょう」とツイッターなどで呼びかけ、「売られている児童ポルノの例」として同誌を挙げたのが原因だ。直後に、実はこの女性が、海外にロリコン系同人誌を販売している業者であることが判明。「アマゾンの販路を断つことで、自身が販売業者として利益を上げようと目論んだのではないか」と、猛烈な批判を浴びることとなった。
論点が、この女性への批判に集中してしまったが、この事件でもっとも問題視すべきはアマゾンの対応だろう。いうまでもなく、アマゾンは日本の出版物の流通のかなりの部分を占めている。
アマゾンの売り上げなどは非公開だが、出版流通対策協議会会長・高須次郎氏の論文(『出版ニュース』二〇一〇年三月下旬号)によれば〇八年末時点で売上二五〇〇億円(うち書籍雑誌一二〇〇億円)で、国内出版物の売上シェアの八%を占めているとされる。この規模は、ジュンク堂書店や文教堂書店を有するDNP(大日本印刷)グループの二六三〇億円・シェア一二%に次ぐ国内第二位の規模で、大手チェーン・紀伊國屋書店(同一一七三億円・シェア五%)を超えている。つまり、出版社は売り上げのうちかなりの部分をアマゾン経由で得ていることとなる。もし、アマゾンが取り扱わないということになれば、経営に打撃を与えることは想像に難くない。
アマゾンが出版物の内容によって取り扱いをやめた事件は、これがはじめてではない。〇九年には、「児童ポルノを想起させる商品」「違法性、残虐、虐待をテーマにした商品、または著しく嫌悪感を催すような商品」を「残虐表現、ドラッグ、鬼畜系、食糞、獣かん」と具体例を挙げて取り扱いを中止したことがある。
元来、書店は「顔」あるいは「イメージ」を大切にする商売だとされてきた。学校の近くの書店ならばアダルト系の雑誌は取り扱わないといった陳列する雑誌・書籍の取捨選択は、書店に委ねられる。しかし、アマゾンは従来の書店と違い、あまりにも巨大だ。アマゾンが独自の基準を設けて取り扱い商品を決めるとするならば、事前に明文化されたものがあってしかるべきだ。それがないままに突然、取り扱いを拒否される恐怖に怯えなければならないのならば、アダルト系に限らず広範な萎縮効果をおよぼすことになるだろう。
アマゾン同様に、雑誌流通の多くを占めるコンビニチェーンでも、一定の取り扱い基準を定めているが、こちらも明確とは言い難い。アダルト系の出版社では「コンビニ基準」なる俗語が、当たり前のように使われているにもかかわらず、である。
『COMIC LO』の取り扱い中止問題は、単なるロリコン趣味の是非ではなく、流通に生殺与奪の権利を握られているという、日本の出版界が抱える問題を明らかにした。読者にとって、書店に行かずとも探している本を即座に注文して宅配してもらえるアマゾンの利用価値は高い。アマゾンに求められているのは、単なるネット通販業者ではなく「文化」を扱うビジネスをしているという自覚である。
(昼間たかし・ジャーナリスト、4月20日号)