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「警戒区域」を解除された南相馬市小高区――水道・ガス使えず困惑する住民

2012年6月4日5:34PM

昨年3月11日のまま、車両が道路脇に乗り上げている。小高区の中心街。(撮影/瀬川牧子)

地盤沈下し、民家や田んぼは湖となった。水のくみ上げが当面の課題だ。(撮影/瀬川牧子)

 福島第一原発から二〇キロ圏内に設定されていた「警戒区域」指定が、四月一六日に解除となった福島県・南相馬市小高区と原町区の一部(約一〇〇平方キロメートル)。今も水道、ガスなどインフラが機能していないばかりか、除染作業も完全には施行されていない。

 原子力災害対策本部は昨年一二月の区域見直し決定をうけ、四月に入り田村市、川内村、「広域で人口が多い」南相馬市の「警戒区域」を少し遅れて解除した。 

 五月八日、現地に入ると、パトロールにあたる多くの警察車両が目に入った。南相馬市だけでなく全国から派遣されている。「空き巣が多発し始めた」と近所の住民は話す。

 地震や津波による地盤沈下で、海岸付近の田畑や住宅地は水の底に沈み、湖になってしまった。水処理ポンプ施設は破壊されており、今後この大量の水をどうするか、解決策は見つかっていない。

 また、至るところで瓦礫の山が目に付いた。南相馬市小高区役所の職員によると、瓦礫が放射性廃棄物となっていることが仮置き場の確保に困難をもたらし、復興を妨げる要因になっているという。

 地区内のゴミは原則として外に持ち出すことができず、住民らは燃やすことも許されていないため、田畑や空き地、自宅駐車場、庭先などに放置している状態だ。

 庭先に、古くなった醤油や油を捨てる行為も見た。

「私たちは解除と聞いた時、それは元通りの生活ができるものだと思いました。でも、解除した後、市から『解除しないと復興できない。復興のための解除』だと聞かされて動揺しています」と南相馬市原町区の仮設住宅で、夫と二人の小学生の子どもと避難生活を送っている、越田美佐子さん(三七歳)は打ち明ける。

 何のための解除だったのだろうか。「解除」の解釈をめぐる行政との大きな隔たりに、困惑する住民は少なくない。

 解除だと聞き、夫の幸活さん(六五歳)と避難先の札幌市から喜んで引き揚げてきた佐藤美千代さん(六四歳)。地元商店街で骨董品店を営む佐藤さんは「復興したってこの商店街には二〇%の住民しか戻ってこないと聞いています。私らの息子も孫もここには戻ってきません」と話す。

 南相馬市小高区の除染を担当している環境省・福島環境再生事務所に聞くと「解除しないとインフラ整備ができません。皆さんの家の片付けにも支障が出てきますし」との返答だった。経済産業省のホームページにアップされている年間放射線量推計によると、解除された同市小高区と原町区の一部は、線量にしたがい三つの地区に分類される(URL http://www.meti.go.jp/

earthquake/nuclear/pdf/120423a.pdf)。住民が自由に出入りできるようになったのは、「健康に影響がないとみられる放射線量が低い地域」で、具体的には年間一~二〇ミリシーベルトの地域に加え、二〇~五〇ミリシーベルト以下の地域も含まれる。

 この地域への立ち入りに時間制限はないが、寝泊りは禁止されている。住民が寝泊りできるまでの完全な解除について環境省・福島環境再生事務所は、「年間一ミリシーベルト以下に抑えるのが理想的」と言う。

 南相馬市役所によると、今年度は公共施設を中心に除染を進めるという。インフラ整備は今年中を目標とし、小中学校など公共施設の解除は、来年八月末を希望している。国の交付金と一部の市税で賄われる予定だ。

(瀬川牧子・ジャーナリスト、5月25日号)

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