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原発を建てられるように「基準」を作っていた――原子力安全の最高責任者2人を国会事故調が追及!

2012年6月13日8:32PM

「安全審査指針類に色々な意味で瑕疵があった」と話す班目春樹・原子力安全委員長。(写真提供/国会事故調査委員会)

人口過密な日本には原発を建てることができないので、建てられるように基準を作っていた――驚愕の事実が原子力安全委員長から語られた。

 国会が設置した東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の第四回委員会が二月一五日、衆議院で開かれた。傍聴者を驚かせたのは、班目春樹・原子力安全委員長の赤裸々な証言だった。

 原子力安全委員会の最大の任務は原子力安全の確保に関する基本的な考えを示すことだが、斑目氏は「今まで発行してきた安全審査指針類に色々な意味で瑕疵(かし)があった」と断言したのだ。

 斑目氏が続ける。「諸外国で色々と検討された時、わが国ではそこまでやらなくていいという説明にばかり時間をかけ、抵抗があってもやるんだという意思決定がなかなかできにくい」「官僚制度の限界と言いますか、担当者が二年ぐらいで代わっていく。大きい問題まで取り扱い出そうとすると、自分の任期の間に終わらない。そうすると、大きな問題に手を出さないで、いかに議論しなくてもいいかという説明ばかりやればいい」「日本の公務員制度は基本的に加点方式ではなく減点法だと思うので、なかなか深堀りができない」

 では事業者についてはどう考えているのか。「護送船団方式と言いますか、一番低い安全基準を電力会社が提案すると、なんとなく規制当局としてはのんでしまう。それが出ると、国が既にお墨付きを与えてるんだから安全ですよと言って、安全性を向上させる努力を事業者の方ではやらなくなってしまう。そういう悪循環に陥っていたんではないか」「安全確保の一義的責任は、あくまでも電力会社にある。電力会社は、国がどういう基準を示そうと、その基準をはるかに超える安全性を目指さないといけない。それなのに、それをしないで済む理由として安全委員会が作っている安全審査指針類が使われてるとしたら、大変心外だと思いますし、これからは決してそうであってはならない」

 野村修也委員(中央大学大学院法務研究科教授、大阪市特別顧問)が一連の発言に厳しく反応した。「官僚の動き方が悪いとか、事業者が悪いとおっしゃっておられるが、最もおかしい動き方をされてたのは委員長ご自身なんじゃないですか」

 斑目氏は「ある程度は認めざるを得ませんが、(就任後)安全指針類について見直そうとしていた」と言い訳するのが精一杯だった。

時代に沿わない指針

 斑目氏の衝撃発言は続く。原発震災に警鐘を鳴らしていた石橋克彦委員(地震学者)は、安全審査指針類の根底にある「立地審査指針」(下コラム参照)について尋ねた。同指針では重大な事故や仮想事故で公衆に放射線障害や著しい放射線災害を与えないことを求めている。石橋委員の「福島原発事故を目の当たりにしてどう評価されているか」の問いに斑目氏は「仮想事故とか言いながらも、実は非常に甘甘な評価をして、あまり出ないような、強引な計算をやっているところがございます」。

 野村委員が、とんでもない計算間違いの責任はないのかと追及すると、斑目氏は「とんでもない計算間違いというか、むしろ逆に、敷地周辺に被害を及ぼさない結果になるように考えられたのが仮想事故だと思わざるを得ない」と告白した。

 事故調の黒川清委員長(元日本学術会議議長)は後に次の見解を発表した。
〈原子力安全委員会の班目委員長自身が安全指針そのものに瑕疵があったことを認め、謝罪された。とくに昭和39年の原子炉立地審査指針という、時代に沿わない指針をもとに設置が許可されていること、今回の事故では、同指針に規定する「仮想事故」(「重大事故を越えるような技術的には起こることは考えられない事故」)よりも、はるかに多くの放射能が放出され、現状の発電所の安全性に大きな問題があることが明らかになった。また、(原子力発電所を)建てられない日本に、建てられるように基準を作っており、全面的にその改訂が必要であるとの認識も示された〉

再稼働は無謀

「理科系の学問を積んで安全行政をやってきたということではない」と述べる前原子力安全・保安院長の寺坂信昭氏。(写真提供/国会事故調査委員会)

 昨年八月一一日まで原子力安全・保安院長だった寺坂信昭氏の説明はしどろもどろだった。三月一一日に首相官邸を出て安全・保安院に戻った理由について「私は事務系の人間。これだけの非常に大きな事故、技術的な知見も極めて重要になってくる。私が残るよりも官邸に技術的により分かった人間が残ってもらうほうがいいと私自身が判断した」「原子力工学その他理科系の訓練というか学問を積んで原子力安全行政をやってきたということではない」と述べている。

 住民の避難作業については「作業そのものに積極的な何かがあったとはあまり記憶していない」という。

 原子力資料情報室の伴英幸・共同代表が憤る。「斑目発言を素直に読めば、日本に原発は建てられないし、今後、新指針を作っても既存の原発が適合しないことは明らかだ。寺坂発言を聞くと、安全・保安院の防災対策に現実味がなく、いざというときに機能しない無能集団であることがはっきりした。原発を再稼働させてはならない」

 二氏の証言は原発の危険性を一層浮き彫りにした。

(伊田浩之・編集部、2012年2月14日号)

※野田佳彦首相が、関西電力大飯原発3、4号炉(福井県おおい町)の再稼働に突き進んでいるため、少し前の記事ですが、状況はなにも変わっていないためインターネット配信します。(肩書は記事掲載当時)

◇◇◇原子炉立地審査指針(1964年5月27日、抜粋)◇◇◇
1.2 基本的目標
 万一の事故時にも、公衆の安全を確保し、かつ原子力開発の健全な発展をはかることを方針として、この指針によって達成しようとする基本的目標は次の三つである。
 a 敷地周辺の事象、原子炉の特性、安全防護施設等を考慮し、技術的見地からみて、最悪の場合には起るかもしれないと考えられる重大な事故(以下「重大事故」という。)の発生を仮定しても、周辺の公衆に放射線障害を与えないこと。
 b 更に、重大事故を超えるような技術的見地からは起るとは考えられない事故(以下「仮想事故」という。)(例えば、重大事故を想定する際には効果を期待した安全防護施設のうちのいくつかが動作しないと仮想し、それに相当する放射性物質の放散を仮想するもの)の発生を仮想しても、周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと。
 c なお、仮想事故の場合にも、国民遺伝線量に対する影響が十分に小さいこと。
一部改訂 1989年3月27日

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