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イレッサ大阪高裁逆転敗訴――軽視される薬の安全

2012年6月13日5:57PM

 抗がん剤イレッサを服用し死亡した患者の遺族らが、国と製造販売元のアストラゼネカに損害賠償を求めていた薬害イレッサ訴訟で、大阪高裁(渡邉安一裁判長)が五月二五日、原告逆転敗訴の判決を言い渡した。「こんな判決では、現場で人員が増やせず、薬の安全が軽視されかねない」とは、報告集会に参加した医療関係者の声だ。

 イレッサでは、販売間もなく間質性肺炎等が頻発し、緊急安全性情報が出されるまでの三カ月でわかっているだけで一六二人もの死亡者を出した。その後安全対策が行なわれるたびに漸次死亡者数が減少していき(一〇年は一六人)、このことは、いかに当時の対策が不適切であったかを示している。

 一審では、〔第一版添付文書は医師らに対する安全性確保のための情報提供として不十分であった〕として、大阪地裁がアストラゼネカの責任を認め、東京地裁が国とアストラゼネカの責任を認めた。だが昨年一一月、東京高裁が被告らの責任を取り消し、今回大阪でも地裁の判断が覆された。本判決では〔第一版添付文書を読めば危険性を認識できた〕としているため、一六二人の死亡は、それを読み取れなかった現場医師の責任であると言っているに等しい。もしくは被害者は泣き寝入りせよということか。医薬品の安全性への認識をも後退させる内容であり、原告らは即時上告の意思を示した。

 なお、この訴訟では一一年一月に両地裁が和解を勧告した際、日本医学会高久史麿会長、日本臨床腫瘍学会、日本肺癌学会、国立がん研究センターなどが相次いで和解勧告を批判する声明や見解を示していた。しかしある見解に対し、国が裏で働きかけていたことが報道され、厚生労働省内に設置された検証チームが調査したところ、一部には声明文案まで渡していたことが判明した。だが、公開された資料のほとんどが黒塗りであったため、現在ではその情報公開を求め、東京地裁に訴訟が提起されている。このような卑劣な官学癒着の構造は、許されていいものではない。次回期日は八月二一日だ。

(大西史恵・ライター、6月1日号)

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