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初の6歳未満脳死判定と臓器移植――“感動のコメント”背景にマニュアル
2012年7月10日5:57PM
「息子が誰かの身体の一部となり長く生きる……」。このコメントに違和感を感じた人がどれだけいただろうか。六歳未満の男児に国内初の法的脳死判定が実施され臓器提供――。六月一四日、日本臓器移植ネットワークが発表したものだが、次のような経緯だという。
ドナーとなった男児が富山大学附属病院に入院中の六月七日、主治医は重い脳障害であることを家族に説明。その後、家族から臓器提供の申し出があったという。九日、一〇日には移植コーディネーターから「脳死・臓器提供」の説明を受け、一〇日に「臨床的脳死」診断。一二日に三度目の説明を受け「承諾書」にサイン。一三日「法的脳死判定」が開始され、一四日「脳死」判定。同日に会見が行なわれ、家族のコメントが読み上げられた。臓器提供は翌一五日。移植完了前の公表はきわめて稀だ。
そもそもこの男児がいつ外傷を負い入院し、低酸素性脳症を起こし致死的状態になったのか、経過は不明である。家族の対応の早さにも疑問を抱かざるを得ない。「重篤な状態」との説明だけで自ら「提供」を申し出、臨床的脳死診断の二日後に承諾書にサインをし、法的脳死判定後、コメントを寄せる。理想的なドナーストーリーに見える。よほどの理解者なのか。『朝日新聞』社説氏はいたく感動したようだが、実はこうしたコメントにはマニュアルがあるのである。
一九九七年に臓器移植法が制定された日本では、提供を説得する言葉として米国由来の「愛のギフト」という言葉を使っていた。が、何年経ってもうまくいかない。そこで試行錯誤の末、日本人の死生観、遺体への執着心などを踏まえ独自の言葉が考案された。「愛する人の身体の一部が他人の身体の一部で生きている……」。今回のコメントとそっくりの言葉。これは正式テキストではないが、いわば隠しマニュアルとして移植コーディネーターに受け継がれている。
一五歳以下の提供を認めさせた改定臓器移植法(二〇一〇年七月施行)に則り幼児の脳死判定を行なう新たな局面を迎えたが、情報開示は限定的で、国民に約束した透明性もまったく見られない。なによりもパニック状態になっている家族の承諾のみで提供を可能にする危うさがある。今後、徹底した検証と情報開示が必要である。
(これひさかつこ・ジャーナリスト、6月22日号)
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