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汚染防ぐ「難透水層」は本当にあるのか――豊洲の土壌“安全神話”に疑問
2012年7月23日6:03PM
東京都の築地市場の移転先である豊洲地区は、環境基準の四万三〇〇〇倍のベンゼンが検出されるなど土壌汚染が深刻だが、地下数メートルに二~二〇メートルの厚さで連続し、汚染の地下深くへの浸透を防いでいると都が主張してきた粘性土の難透水性の地層(以下、難透水層)に、「ザル」同然の疑いがあるとわかった。
一級建築士・水谷和子さんは、都が豊洲の汚染調査のために行なった全一三三八区画のボーリング調査の柱状図を調べた。柱状図とは直径一〇センチ弱の円筒を土中に打ち込み、土壌を採取して砂や粘土などの地層を記録した図面だ。
その結果、七〇センチ程度しか離れていない近傍の柱状図同士の難透水層の上端が、自然の傾斜と見なしにくい四〇センチ以上ずれていたのが七九区画あった。最大では四・七メートルも食い違っていた。これは、難透水層が不連続で、穴があいている可能性を示す。
また、二七八区画は環境省のガイドラインが難透水層の要件とする厚さ五〇センチに満たず、最も薄い所では二センチしかなかった。
だが、東京都中央卸売市場新市場整備部の安部毅・基盤整備担当課長は、「ボーリング地点は、全く同一地点ではないのでずれていても不思議ではありません。また、二七八区画のボーリングは難透水層の厚さを調べるのではなく、汚染調査が目的で、難透水層に当たれば止めているので五〇センチ未満があるのも当然です」と述べた。
これに対し、水谷さんは「都のボーリング調査は、二八七区画で五〇センチ以上の難透水層が本当にあるのかを確認していない事実は変わりません」と反論した。
そもそも、都が難透水層の確認のために行なったボーリング調査は約三七ヘクタールもの広大な豊洲の新市場予定地内で合計七〇本にすぎない。この程度でなぜ難透水層の連続性を判断できるのか。
安部課長は「東京湾の埋立地である豊洲の地層の成り立ちを考えると、難透水層は一定の連続性を持っていると考えるのが常識。それにボーリング調査の結果などをふまえて総合的に判断しました。専門家会議(都が土壌汚染調査と対策のために委嘱した専門家の会議)も認めています」と答えた。
だが、移転に反対する日本環境学会土壌汚染問題ワーキンググループ長の坂巻幸雄さんは「現実の堆積物は水流による頻繁で小規模な浸食と堆積を反映し、砂、泥など小ユニットの集合です。よってゴムシートもどきの連続した遮水性などもともと期待できません。都の説を実証するなら、一〇〇平方メートルでも全面剥土をしてみれば、地層の連続性がどの程度かすぐ判ります。が、都はそんな基礎的調査はせず、『安全神話』をかたくなに主張しています」と批判した。
また、NPO法人・日本地質汚染審査機構・地質汚染診断士の会の上砂正一会長は、移転賛成の立場だが「都がやったボーリング調査ではなく、地層が変わるごとに現場で分析し、汚染状況を確認する方法(単元調査法)でなければ、粘性土層の連続性と汚染の実態は確認できません」とした上で、「都はこの問題について第三者の調査チームにデータをすべて出して審査依頼をすべきです」と提言した。
東日本大震災では豊洲も液状化し、都の調査では一〇八カ所で地下の砂や水が噴出する噴砂が起きた。地震動は豊洲近くの東雲で一六八ガル、辰巳では二二四ガルを記録した。しかし、豊洲新市場の設計地震動は一四四ガルでしかない。しかも、都は耐震計算で液状化すると判定されている箇所の一部は対策を講じず、残す計画だ。
豊洲では、二〇一四年度開場を目指して現在五八六億円をかけて土壌汚染対策工事が進む。だが、地震で液状化すれば地中の汚染物質が噴出、市場機能は停止する。
都は二〇〇六年に豊洲購入のために財産価格審議会に提出した議案書では「現在、汚染物質は存在しない」とまで言っていた。その後、仲卸業者や消費者ら都民の移転反対運動で専門家会議が設置され、深刻な汚染が判明した経緯がある。難透水層が本当に連続しているのか、都は実証すべきだ。
(永尾俊彦・ルポライター、7月13日号)
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