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搬入先の北九州市では住民が訴訟――宮城県の瓦礫は広域処理不要
2012年9月11日5:09PM
福岡・北九州市で七月二七日、全国初の震災瓦礫広域処理に絡む裁判が起こされた。市民一四二人が原告となって同市の北橋健治市長と宮城県の村井嘉浩知事を相手取り、「市が宮城県から瓦礫を受け入れることは不必要で住民の健康を害するおそれがあり、精神的苦痛を受けた」として、損害賠償を求めたもの。背後には、同県の広域処理をめぐる奇妙な動きがある。
宮城県は昨年九月、鹿島特定建設工事共同事業体(鹿島建設や清水建設など九社で構成。鹿島JVと略)との間で、県内の震災瓦礫一四七〇万トンのうち、石巻ブロック(石巻市や女川町等。他に宮城東部、亘理名取等計四ブロックが設定)の六八五・四万トンを処理する契約を、一九二三億六〇〇〇万円で締結した。
ところが今年五月になって、県はこの一四七〇万トンを一〇三〇万トンに下方修正し、石巻ブロックも六八五・四万トンが三一二万トンに半減してしまう。にもかかわらず県は同月に、わざわざ北九州市で広域処理する意向を表明。七月には村井知事が北九州市を訪れ、石巻市の瓦礫受け入れに関する協定を締結した。
内容は、市が二〇一四年三月までに「木くずなど可燃がれきを年間最大三万九五〇〇トン受け入れ、市内三カ所の処理工場で焼却処理する」(『河北新報』八月二日付)というものだ。
だが一方で、県には八月の時点で稼働可能な仮設焼却炉が二九もあり、一日あたりの処理能力が四四九五トンとされる。このため仙台市は来年五月までに処理を終え、石巻の一〇万トン分を受け入れる余裕があると表明している。年間三万九五〇〇トン程度の瓦礫を、わざわざ北九州市に運ばなければならない理由は乏しい。
しかもコスト的には、県内で処理すれば一トンあたり約三万円で済むにもかかわらず、遠距離のため北九州市に送れば運送料だけで一トンあたり約一五万円もかかる。この瓦礫は搬出前に県内で「土砂や不燃物を除去し、可燃物を長さ約三〇センチ以内に破砕」(同紙)されるというが、県内での処理能力がありながら、燃やすだけの目的でなぜこれほどのコストをかけなければならないのか。瓦礫の広域処理は国からの補助金が支出されるから、北九州市に委託した分、二重に加算される可能性もある。
北九州市側もこれまで、市民団体などから(1)石巻市の瓦礫量は大幅に下方修正された以上、市に送らねばならないような瓦礫は存在しているのか(2)残っているとしても現地で処理可能な瓦礫を、なぜ遠方の市まで運んで焼却する必要性があるのか――等の質問が提出されているが、八月二八日現在、市側からの明確な回答は示されていない。
宮城県の震災廃棄物対策課は、これについて「鹿島JVと契約した時点で、最初から広域処理は決まっていた。瓦礫の内容によってはすべて県内で処理するのは困難で、県外に委託すべきものもある」としている。だが、契約後に瓦礫の量が下方修正され処理能力に余裕ができた点や、北九州市に委託した瓦礫が県内処理できない部類になるのかどうかについては、明白な回答を避けた。
そもそも県が鹿島JVとの間に交わした一九二三億六〇〇〇万円という契約金は、震災関連のみならず単体の公共事業としては現在国内最大規模だ。ところが、県議会でわずか二日の審議で決定されたほか、契約の前提となる処理すべき瓦礫量が半減しながら、なぜか金額の更新はされていない。
さらに鹿島JVが落札する前の昨年七月三〇日には、県の秘書課等に「環境省とスーパーゼネコンが話し合い、宮城県のがれきの二次処理について割り振りを決めた」と告発した「仙南の建設業者」と名乗る人物からの談合情報が届いた。県と落札した他大手ゼネコンの社名も事前に指摘しており、県には「談合があったのでは」という抗議が一時数多く寄せられた(鹿島建設東北支店は否定)。今回の県の北九州市への委託問題も、こうした瓦礫処理をめぐる不透明な実態と無縁ではなさそうだ。
(成澤宗男・編集部、8月31日号)