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大阪市体罰自殺事件で学校を擁護する保護者も――橋下氏、教育への介入強化か

2013年1月31日5:20PM

会見する大阪市教育委員会。弁明ばかりが目立っている。(撮影/粟野仁雄)

 顧問教諭の体罰を苦にした「死の抗議」だったのか。昨年一二月二三日、大阪市都島区の市立桜宮高校に通うバスケットボール部主将の二年生男子生徒A君(一七歳)が自ら命を絶った。

 淀川べりの同校で一月九日夜に非公開の保護者説明会が開かれた。問題の教諭は自宅謹慎だが三時間に及ぶ説明会は「生徒が死んでるんやぞ」「なんで体罰に気付かなかったのか」などと詰め寄られた佐藤芳弘校長らは謝罪するばかり。最後に部活の顧問教諭らが「体罰は絶対にしません」と誓った。別の場でテレビ局取材に応じたA君の父親は「彼が自ら命を絶ったのが心の叫びで、周りに伝えたかったメッセージです」などと話し、母親は「あの日はいつもより(私に話を)聞いてほしいという感じでした。そのままにしていたのが悔やまれます。冬休みになったのに勉強するのは変だと思った。まさか」などと声を絞り出した。遺書を書いていたようだ。

 通夜の終了時、母親が顧問教諭に「遺体を見てください。これは体罰ですよね」と腫れあがったA君の顔を見せた。「顧問教諭は土下座した」とする市教委に対し、父親は「謝罪はなかった」と食い違う。遺書は顧問教諭に触れていないが、顧問の体罰は「公然化」していた。

 同校では一昨年九月、部員への暴力でバレーボール部の顧問教諭が三カ月の停職処分を受けた。同じ頃、市に「バスケット部では顧問の激しい体罰で生徒がおびえている」との公益通報があったが、学校は生徒に聴取せず、各部の顧問教諭らに聴取するだけで「体罰なし」と市教委に報告した。永井哲郎教育長は「公益通報制度では情報を明らかにできない。生徒に聞けば説明しなくてはならないから聴取しなかったのでは」と弁明するが、自殺直後の生徒へのアンケートでは五〇人中四八人がこの教諭の暴力を目撃していた。生徒に聴取すれば体罰を報告せざるを得ない。「故意の不作為」だろう。

 豪華なジムも完備する同校はプロ野球選手も輩出する「公立のスポーツ校」。バスケットボール部は顧問教諭の「熱血指導」でインターハイにも三度出場した。二二日の練習試合でのタイムアウトで「なんでルーズボールを取りにいかんのや」とA君の顔面を平手打ちするのを男性と女性の若い副顧問の講師が目撃したが「恩師の顧問に口出しできなかった」と話す。一八年も転勤せず校長や教頭も口が出せない「主」だった。

「法的にはともかく体罰と自殺に因果関係がある。救えるはずの命を奪った行政の重大な誤り」と話した橋下徹大阪市長は一月一二日に遺族に二時間以上面談し謝罪。「あの齢で人生を終わらなくてはならないことはどんなに辛かったか」と涙顔で会見した。自らも高校ラグビー部で活躍、「クラブ活動でビンタもありうると思っている」など体罰容認の発言をしていた同市長は「自分の認識は甘すぎた」など反省の弁を述べた。

 こうした事件のたびに「生徒を動揺させず早く平常を取り戻したい」を最優先する学校や保護者が真に生徒に悲劇に向き合わさせないことが多い。そんな中、橋下市長は「仲間を失っているのに直後の生徒や保護者のアンケートではバスケットを早くやりたいとか、顧問に教えてほしいとかが並んでいた。これは異常な世界」と指摘した。市教委の対応の甘さゆえに、橋下市長の“日和見主義”的な発言が注目されてしまうのだ。

 保護者会では群がる報道陣に「この学校はしっかりした学校なんや」とある父親が大声を出したが彼らも大会で好成績を残すことで満足していなかったか。驚くことに学校が関与していないバスケットボール部員の「寮」まであるが、保護者たちが運営していたはずだ。

 最近は公立校でも、活躍した運動部の成果を校舎に横断幕で派手に掲げるが、学校や指導者の名誉が第一になっていないか。

 学校長の民間登用も実施した橋下市長は自らが教育委員会を指導できる条例制定を提案した。行政の教育への介入は要注意だが、悲劇を繰り返してはならない。

(粟野仁雄・ジャーナリスト、1月18日号)

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