民間版「健康保険」導入を狙い――世論誘導図る『日経』
2013年2月4日5:04PM
『日本経済新聞』は一月一五日、一面トップで「生保の現物給付解禁/金融庁 介護や葬儀など/保険金受給と選択」の見出しで、民間保険会社が医療・介護サービスそのものを提供する「保険商品」を金融庁が認可するとの報道をした。しかし、金融審議会では現在、この件は審議中で結論は出ていない。しかも、この保険商品の議論は直近の会議ではなく、二回前の昨年一一月一二日である。この不自然さは連休で紙面が「凪」となる日を狙った世論誘導の感が強い。
事実、金融庁の担当者は困惑の色を隠さず、関連記事で「消費者団体も容認」としたことの事実錯誤も指摘した。議事録で明らかであり、この団体の理事長は「容認」などしていない。反対理由は、サービス提供は保険金と違いトラブルを招くからだ。筆者は双方に直に確認をしている。
生保・損保各社によるこの民間版「健康保険」の創出は二〇〇八年に保険法と保険業法の二段階改定で企図されたが、審議会の段階で反対され頓挫している。
今回は法律改定抜きを前提で生保・損保業界で計画されており、『日経』の内容は業界の審議会提案そのものだ。保険会社本体に禁じられているサービス提供は認めないが、子会社や提携先にサービス提供をさせ、そこへ保険会社が保険料を原資に対価を支払う。ただしインフレ・デフレリスク懸念を踏まえ保険金との選択制にする――と解説。自民党の総選挙の政策集に「多様な民間サービスを民間保険の活用を含め支援する」と盛られたことも背景にあるようだ。
社会保障の弱体化、充実の放置が、民間保険市場の拡大につながる。社会保障の健康保険は非営利運営だが、民間の健康保険「商品」は市場原理で企業利益優先の別物だ。映画『シッコ』にその惨状は詳しい。
社会保障を壊すお先棒担ぎの『日経』報道は指弾されるべきだ。憲法二五条(生存権)に基づく国の舵取りが強く望まれる。
(高橋太・神奈川県保険医協会事務局次長、1月25日号)