金稔万さんが訴訟で敗訴――日雇いへの差別意識
2013年2月26日5:01PM
二〇〇九年、日雇いで働く際に会社から通名使用を強制されたとして、映像作家の金稔万さん(五二歳)が国と大林組、その下請けと孫請けを相手取り慰謝料一〇〇万円を求めた訴訟で、大阪地裁(久留島群一裁判長)は一月三〇日、「原告は了解していた」として請求を棄却。金さんは控訴した。
厚生労働省は特別永住者を除く外国人を雇用する事業者に対し、氏名や在留資格の届け出を義務づけている。それに倣った大林組が下請けに、本来不要な書類の提出を求めたことが問題の発端だった。
裁判上の大きな争点は、密室における強制の有無だった。労使の力関係下で強要されたと主張する金さんに対し、孫請け会社側は「今日から働きたい」との意を汲んだ社長が本社に金さんを呼び、通名使用で手間を省く“抜け道”を提案、金さんも了解したとした。
弁論では孫請け会社の社員2人が社の言い分に沿って当日の時系列を述べたが、その証言は金さんの現場への入場記録で覆された。筋書きの土台が崩れたにもかかわらず、判決は何ら根拠も示さず会社側の主張を「事実」とした。
さらに判決は、原告側が訴えた本名(民族名)を名乗る思いと困難さも無視。狭義の「強制」に問題を矮小化しているが、そもそも絶対的力関係下での強制に露骨な言動は不要だ。承認があれば問題ない、としたこの判決は、今や新定住者の間にも横行する通名「強制」にお墨付きを与えるものだ。
原告側の証拠と証言を全て無視する一方、「結論ありき」で会社側の主張を認めた不実な判決。没論理の文章の決まり文句は「たやすく信用することができない」。行間に滲むのは「日雇いは信用できない」との差別意識である。判決後、金さんは語った。「頑固に通名で生きてきたアボジが、墓は本名です。死んでからしか本名を使えないのか? 生きている間に本名で生きられる社会にしたい」。
(中村一成・ジャーナリスト、2月8日号)