米国での集団訴訟では裁判回避へ――トヨタの相次ぐ和解の裏側
2013年3月7日4:59PM
トヨタは二月一四日、米国三〇の州・領土の司法長官と州側に二九〇〇万ドル(約二七億円)を支払う和解をしたと発表した。トヨタがリコール(無償回収・修理)を実施した結果、株価が急落して投資家が経済的損失を受けたとしていた訴訟に対してであった。
昨年一一月、トヨタはメリーランド州退職年金基金など同社株主から、情報隠しによる違法な「株価操作」をした結果、損害を受けたと起こされていた訴訟で二五五〇万ドルの和解金を支払うことに合意したと報じられていた。
一二月にも一一億ドルを支払うことで和解、カリフォルニア・セントラル地裁も仮承認した。これは二〇〇九年から二〇一〇年に発生した大規模リコールの結果生じた一六〇〇万台の自動車の価値下落に対する経済的損失訴訟に関する集団訴訟。リコール訴訟としては史上最大額だった。
さらに今年一月一六日には、ユタ州で二人が死亡した事故について、原告側と和解に合意。一〇年一一月、急加速したとされる同社製カムリの運転手と同乗者が死亡した事故だった。このユタ州の事故は人身事故に関する集団統合訴訟のテストケースとして行方が注目されており、二月一九日にカリフォルニア州で審理が予定されている直前のタイミングだった。
米国法曹関係者によると、現在トヨタは三〇〇近くの集団訴訟を抱えているというが、円安効果などで五年ぶりに単体黒字化するなど業績も回復、和解を進めていく方針だろうと言う。
今回の和解理由として日本メディアは、トヨタが訴訟の長期化を避けるためだと報じるが、前出の法曹関係者は「トヨタは政府当局に何十万枚もの内部資料を押収されており、裁判になればそれが明るみに出る。なによりもそれを怖れたのだろう」と見る。一月に和解したユタ州のテストケースについて、本誌は昨年一〇月に来日した担当弁護士に取材したが、その際、弁護士は裁判で新証拠を提出する可能性を匂わせていた。
また、本誌が入手していた一〇年一月一六日付トヨタ社内のメールは次のような内容だった。
米国トヨタ自動車販売(TMS)副社長(当時)のアーブ・ミラー氏は同社広報担当役員の小金井勝彦氏にむけて「いくつかのモデルでアクセルペダルの欠陥がわかっている。このことを所有者に隠し続けることは、安全性をもぎとることだ」と発信。これに対し小金井氏は「電話で話したように、われわれはアクセルペダルの欠陥を公言すべきではないと考えます。なぜならば、われわれはまだひっかかるペダルの欠陥の原因を正式につきとめていないし、その修理をどうすればよいかの答えが出ていないからです」と返信していた。
リコール隠しの疑惑を抱かせる内容だが、実際、米国運輸省は報告遅滞で一〇年四月に一六四〇万ドル、昨年一二月に一七三五万ドルもの罰金支払いをトヨタに命じている。日本ではトヨタを狙い撃ちとの批判があるが、米国内では安全性を軽視したトヨタのリコール隠し、情報隠しは再三報じられており、その体質を含めた「トヨタ・ウェイ」が非難を受けてきた。
そもそも〇九年に北米トヨタの稲葉良睨社長が作成した社内向けプレゼン資料が議会に押収され暴露されたことなども決定的に同社の信頼低下につながった。文書には、「有利なリコールの克服法」として、安全規制や当局の調査を遅らせることによって、一億ドルも経費削減したと自慢げに書かれていたのである(写真)。
米国でトヨタ訴訟に取り組んでいるスティーブ・W・バーマン弁護士(集団訴訟担当主任弁護士)は、トヨタの隠蔽体質を「ニクソン大統領が犯したウォーターゲート事件と同じであり、犯した罪をひた隠す行為を責め続けてきている」と強烈に非難してきている。稲葉氏、豊田章男氏の体質は米国での公聴会でも指摘され、豊田社長はそれを認めている。
トヨタにはまだ大きな集団統合訴訟はいくつも残る。そのすべてにトヨタは和解=金で対応するのか、できるのか。注目したい。
(平井康嗣・本誌編集長、2月22日号)