安倍首相のお膝元での参院山口補選――自民、民主が事実上の一騎打ち
2013年4月26日1:36PM
今夏の参議院選挙を占う前哨戦となる参院山口補選(四月二八日投開票)が一一日、告示された。安倍晋三首相のお膝元で安倍政権発足後の初の国政選挙であることから「何としても勝たないといけない選挙」(山口二区の岸信夫衆議院議員)。しかし、安倍首相の指示で自民党公認候補となった江島潔・元下関市長(公明党推薦)が、地元の大票田・下関で不評。その結果、「民主党不戦敗か」との報道も出る逆風下で出馬した平岡秀夫・元法務大臣(民主党とみどりの風推薦、社民党支持)との実質的な一騎打ちとなりつつある。
江島市政(一九九五~二〇〇九年の四期一四年)を追及してきた田辺よし子市議はこう話す。
「江島市政時代、安倍首相がかつて勤務していた神戸製鋼所が『奥山工場焼却施設』(一一〇億円)や『リサイクルプラザ』(六〇億円)を落札するなど、安倍氏の関連企業が市の大型公共事業を受注。官製談合疑惑が浮上して裁判になったこともありました。そのため、『江島市長は安倍氏と癒着しているのではないか』という批判が噴出、安倍系企業優遇に反発した地元中小企業経営者と市民派らが連携して現・中尾友昭市長を誕生させたのです。談合・癒着疑惑だけでなく、報告がきちんとされない海外・国内出張も多く、さらに自らが妻を訴えた離婚訴訟問題も明らかになり、女性層も離反。結局、江島氏は五選出馬を断念した経緯があります」
神戸製鋼所の奥山工場焼却施設はプラズマ溶融炉を後工程に組み込んだ方式で「焼却灰がリサイクルできる」のが売りだったが、実現せずに頓挫。それでも維持管理費を神戸製鋼所の関連会社に支払い続けてきた。中尾市政になって同溶融炉を停止したところ、「電気代などが浮いて年二億円弱の経費削減となる見通し」(同工場)。
なぜ大票田の地元下関で不評の江島氏が候補者になったのか疑問に思う県民は少なくなく、「神戸製鋼所の連続受注など江島市政の“実績”を安倍氏が評価したのではないか」という憶測が流れるほどだ。
これに対し江島氏は「自民党は参院選の候補者として市町村長ら首長経験者を多く出す方針。それで私が選ばれたのだろう」と話す。
全国的には高支持率を誇る安倍政権だが、地元・下関では三月の下関市長選で安倍系市議が現職の中尾市長に敗れ、同時に行なわれた市議選補選でも安倍系候補が市民派に敗れて二連敗を喫した。
「勝機十分」とみてか、民主党は総動員体制を取っている。三月三一日には細野豪志幹事長が山口県に入り、下松市の事務所開きで「全国会議員に一度は現地入りするように指示した」と全面支援を宣言。急遽集まった約一五〇人の支持者を前に「参院選で自民と維新で三分の二をとれば、憲法が改正されて国防軍もできるかもしれない。もう一度、立ち止まって考えてもらいたい」と支援を訴えた。
続いて平岡氏は「日本の政治は右翼化する世襲政治家集団の自民党が一強の状況で、対抗すべき政治勢力が必要。穏健保守から中道・リベラルまでの庶民的政治勢力を結集するために無所属で出馬した」と強調。「自民党の幹部たちは『参院選までは安全運転』と言っているが、参院選後は危険運転をするということ。その一つが『上関原発』の工事再開だ」と危機感を露わにした。
三月三一日には菅直人元首相が上関町の祝島を訪問。中国電力上関原発に反対する島民らと座談会を持ち、「参院山口補選と次の参院選で自民が勝ったら、原発を順次再稼働させ、着工中の(原発)工事をまた始める。安倍さんに方向を変えさせられるか、ギリギリなんです」と訴えた。
東京でも四月二日、脱原発派が「平岡秀夫さんを応援する脱原発市民の会」を結成。脱原発基本法成立を目指す河合弘之弁護士や、去年七月の山口県知事選で善戦した環境エネルギー政策研究所・飯田哲也所長らが名を連ねた。
原発推進や憲法改正が主要争点となるため、平岡氏が脱原発派や憲法改正慎重派の受け皿となる可能性は十分ある。参院山口補選が安倍政権の暴走を止める国政選挙として注目を集めるのは確実だ。
(横田一・フリージャーナリスト、4月12日号)