インフルエンザ発生で集会を禁止!?――戒厳令のような特措法が施行
2013年5月10日6:58PM
新型インフルエンザが発生したので、集会を禁じる――。強烈な私権制限を可能にし、憲法が保障する集会の自由の制限に踏み込む法律が四月一三日に施行された。感染拡大を防ぐ効果には、疑問符が付いている。
この法律は新型インフルエンザ等対策特別措置法。本来は四月末の施行予定だったが、中国でH7N9型鳥インフルエンザが発生したため、法適用を視野に入れ、菅義偉官房長官が前倒しを表明した。
同法では、国内で患者が出て、季節性インフルエンザより重症例が多いなどの条件を満たせば、首相が緊急事態を宣言する。知事は住民の外出自粛を要請。集会場のほか劇場や映画館などの使用停止を指示できるようになる。
さらに土地の強制使用、医薬品や食品の強制買い上げなど、さまざまな強権措置が可能に。法律に反対する日弁連の担当者は「まるで戒厳令」と指摘する。
法制定を主導した前内閣危機管理監の伊藤哲朗氏、現職の米村敏朗氏、実務を担った杉本孝内閣参事官は、いずれも警察庁出身。「警察官僚が主導権を握るために作った法律。感染症対策でなく有事立法だ」と、厚生労働官僚は苦々しげにつぶやく。
日本感染症学会も昨秋に討論会を開き、専門医らが「重要なのは、ワクチン接種や重症患者の早期治療」「法律は無意味な混乱を引き起こす」と訴えた。感染リスクが高い満員電車での通勤などが規制から外れており、「集会禁止の効果は非常に疑問」との批判も。
その後、H7N9型は人から人への感染力が弱く法適用はなさそうだとの見方が出ている。だが、要件はあいまい。季節性より毒性が弱かった二〇〇九年の新型インフルエンザにすら適用された可能性がある。
数年に一度、緊急事態宣言が出され、私権制限に人々が慣れていく。そんな事態が憂慮されている。
(日置陽子・ジャーナリスト、4月19日号)