新規制基準でも稼働が続く見込み――大飯原発運転容認判断に怒り
2013年5月24日4:41PM
「不当判決許せない。高裁に即時抗告して闘おう!」。四月二〇日、雨の大阪市で「美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会(美浜の会)」や京都の環境NGO「グリーン・アクション」などが主催した集会が開かれた。怒りの矛先は当然、四日前にあった大阪地裁の不当な決定に向けられた。
全国で唯一稼働している大飯原発(福井県おおい町)について、近畿二府四県と福井県、岐阜県の住民らが関西電力に運転取り消しの仮処分を申し立てていた。
小野憲一裁判長は一六日、「具体的な危険性は認められない」と申し立てを却下。(1)全電源喪失の防止(2)炉心の冷却継続(3)ストレステスト(耐性評価)――の三点を合理性があるとし、3、4号機はこれらを満たしているとした。
原告側は海側から原発に迫るFo-A断層とFo-B断層、さらには滋賀県から延びる熊川断層の三つの活断層が連動して巨大地震になる可能性を訴えたが、関電は否定。判決は連動の可能性を認めたが、制御棒の挿入時間について「許容値を二・二秒とする定めはなく目安にすぎない。三連動でも二・二秒を超えない。仮に超えて二・三九秒でも具体的危険はない」とした。
集会では「美浜の会」の小山英之代表が判決について「活断層の三連動を認めて事実上、約一〇〇〇ガルと認めたのは大きい」と説明した。しかし「JNES(原子力安全基盤機構)によれば三連動すれば制御棒の挿入時間は基準値の二・二秒を超えるのは確実」などと強調。「この安全性が具体的に示されない限り、3、4号機の運転は許されない」と結論付けた。
原告代理人の冠木克彦弁護士は「制御棒挿入時間の二・二秒をめぐってあれだけ厳密に論議をしてきたのに裁判長は一応の目安、と片付けた。目安という言葉に唖然とします。それなら二・二秒を超えても大丈夫ということを関電側が証明すべきなのに、こっちに立証責任をかぶせた」と憤慨した。
また、小野裁判長が敷地内を走るF6断層を「活断層ではなく地滑り」と断じたことについて、「グリーン・アクション」のアイリーン・美緒子・スミス代表は「検討委員会(原子力規制委員会)でも意見が割れているのに勝手に地滑りと決めた小野さんは活断層の専門家なのかしら。三連動は認めざるを得ないところまで司法は追い込まれ、『危ないと証明されましたけど大丈夫ですよ』と推測で言ってる。だから『疎明』なんていう言葉を使う」と話した。
決定文は「関電は安全性に関する主張疎明を尽くした」などと至る所で「疎明」という言葉を使った。確信できなくても裁判官が「一応、確からしい」という推測を抱いてよいという司法用語。仮処分では「疎明」で逃げられる。
一方、関電は一八日、大飯原発が規制委(田中俊一委員長)の新基準に適合しているとする報告書を出し、一九日に審議が始まった。
規制委はフィルター付きベント装置、直流電源装置、免震の制御施設などの設置に五年間の猶予を与え、新基準施行の七月に合格しなくても稼働を続けさせる含みを見せている。「福島老朽原発を考える会(フクロウの会)」の阪上武代表は「新基準は付属設備について言っているだけで原子炉の設計指針は変わっていない。規制委は再稼働運転をさせ続けることが前提で大飯原発を特別扱いしている」と話したが裁判の日程と合わせてもまるで出来レースではないか。五年以内に大地震や大津波が来たら規制委は責任を取るのだろうか。
住民の七割が大飯原発から半径一〇キロ以内に暮らす福井県小浜市の名刹・明通寺の住職、中嶌哲演さんは集会には来られなかったが「関電の主張の踏襲ばかり。司法の独立性はどこにあるのか。利害システムに取り込まれ三権もろともに『はじめに再稼働ありき』で動いている。それでも福島以来、大消費地の人も強い関心を持ってくれた。関電の本社がある大阪は本丸です。ともに戦い続けたい」と決意を語っていた。チェルノブイリ事故が起きた四月二六日、原告団は大阪高裁に即時抗告する。
(粟野仁雄・ジャーナリスト、4月26日号)