控訴取り下げ水俣病と認定されても……――補償協定を拒むチッソ
2013年6月11日5:48PM
認定をめぐり多くの被害者が苦しんでいる水俣病。行政が水俣病と認定しても、チッソが補償協定を結ばず、患者の補償が宙に浮くケースが出ている。
熊本県水俣市出身で大阪府豊中市在住の女性(二〇一三年三月に八七歳で死去)の遺族が、熊本県に水俣病の患者認定を求めていた裁判で、女性は水俣病ではないという県の主張を支持した大阪高裁判決が先月、最高裁によって破棄、差し戻された。これを受け、蒲島郁夫・熊本県知事は五月七日、控訴を取り下げ、女性を水俣病と認めた大阪地裁判決が確定。知事は同日、女性を水俣病と認定した。
「生きているうちに認定してほしかった」と遺族が言うように、「認定は評価するが、遅きに失する」と田中泰雄弁護士は語る。
裁判では国の認定基準の誤りが明らかになるなど課題は残されているものの、女性は〇四年に最高裁で勝訴した水俣病関西訴訟原告でもあり、司法と行政の両方から水俣病と認められたことになる。しかし、チッソが女性とスムーズに「補償協定」を締結することは期待できない。
なぜなら、チッソは、関西訴訟の勝訴原告については「訴訟で補償は決着済み」とし、補償協定の締結を拒否しているからだ。
同じく補償を拒否されている近畿在住の男性によるチッソを被告にした裁判は最高裁に上告中だ。男性の代理人でもある田中弁護士は、補償協定を交わすことは「協定上の地位の確認」でもあるという。
協定書の前文には、水俣病に罹患した苦しみ、チッソの態度による苦痛などに対して、「チッソは心から陳謝する」とあり、認定患者で希望する者には協定が適用されると書かれている。
補償協定を拒むチッソに、国も県も傍観するだけ。患者が長い歳月の末に獲得した「認定」が反故にされている。
(奥田みのり・フリーライター、5月17日号)