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「市場化テスト」で担当会社が混乱か――赤字必至の防衛省警備請負

2013年6月25日5:38PM

中庭にPAC3を配備しているため厳重警戒中の防衛省正門。(撮影/本誌取材班)

中庭にPAC3を配備しているため厳重警戒中の防衛省正門。(撮影/本誌取材班)

「東京・市ヶ谷にある防衛省の警備体制が混乱しかねません。民間警備会社の入れ替えが五月末にあるのですが、新たな警備員確保に手間取り、強引な引き抜きも横行しているようなのです」――ある防衛省関係者がこう打ち明ける。

 にわかには信じがたい話だ。防衛省は現在、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の弾道ミサイル発射に備えた政府の破壊措置命令によって、防衛省中庭にも地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を配備。正門の一方を閉じるなど厳重な警備を続けている。そんななか警備そのものが混乱しかねない事態が本当に生じているのだろうか。

 警備業界に詳しい関係者が打ち明ける。「残念ながら事実です。防衛省市ヶ谷地区の警備業務は二〇一一年四月からの三年契約で、複数の企業などが共同で施設管理全体を請け負っています。そのうちの警備を担当していた会社が、『単価が安くて赤字の垂れ流しになる』と音を上げたと聞いています。七〇人規模で警備をしていたようで、施設管理を共同で請け負っている別の企業が替わりを務めようとしているのですが、防衛省は機密保持のために条件が厳しく、警備経験三年以上で六〇歳未満かつ平均年齢四五歳未満などを満たさなくてはならないので、新しい人材確保に苦戦しているようなのです」

 そもそも「赤字にしかならない金額の発注」などあり得るのか。防衛省資料によると、管理業務は「防衛省市ヶ谷地区施設管理業務共同体」が六九億五〇一六万円(三年間、税込)で落札している。契約時の代表企業は山武(現アズビル)で、ほかに株式会社六社と財団法人「防衛弘済会」が共同体に名を連ねている。

 別の関係者が憤る。「設備管理や警備、清掃などの各業務を受託する共同事業体をつくっているのですが、受注額の配分は代表企業が握っているようなのです。だから確証はないのですが、一部が甘い汁を吸っているという噂もあり、不満も漏れ聞こえてきます」

 取材を進めると、小泉純一郎政権時に導入された「公共サービス改革(市場化テスト)」が根本原因だとの指摘を聞いた。内閣府のホームページによると、市場化テストとは〈官民競争入札・民間競争入札(いわゆる市場化テスト)を活用し、公共サービスの実施について、民間事業者の創意工夫を活用することにより、国民のため、より良質かつ低廉な公共サービスを実現〉するのが目的だという。

「質の維持と価格の引き下げは両立しません。防衛省の要求する警備の品質と引き合わない支払いでは、どの民間会社でもいずれ大幅な赤字に直面することになりそうです」(先の警備業界関係者)

 冒頭の防衛省関係者は次のように話す。

「五月末で手を引く警備会社は、共同体の代表企業を通して警備員の個人情報や勤務シフト計画を防衛省に提出していたようですが、新しい警備受託会社が四月上旬ごろから転職の勧誘を行なっているようです。警備員が防衛省から帰宅するときなどに声をかけているとのことで、引き抜きに遭っている会社は『防衛省という高度な機密施設の安全を担当する業者が、個人情報を流用して引き抜きをするのか。防衛省の警備を受託できる資質が疑われる』と怒ってます」

 代表企業アズビルからは期日までに回答がなく、新警備受託会社は勧誘の事実はないと回答した。

 ただ、防衛省の現役職員も勧誘に携わっているとの情報もある。防衛省警備班の副班長や組長などが「移籍の話をしてあげる」などと声を掛けているというのだ。もし事実だとすれば、異常な事態と言わざるをえない。

 防衛省広報課はこう話す。

「施設管理業務を一体として契約しているため警備業務のみの契約金額を抜き出して把握することは困難です。(引き抜きの)事実関係は承知していないが、防衛省会計課警備班の職員は民間企業に所属する警備員に転職を勧める職務にはないと考えている」

 適正な受注によって民間企業を“防衛”することも、防衛省の重要な任務だと思うのだが……。

(本誌取材班、5月31日号)

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