原発の新規制基準を正式決定――再稼働の動き、一気に加速へ
2013年7月9日4:16PM
「過酷事故対策がやや強化されるなど評価すべき点はあるが、重要設備でも工事に時間がかかるものは五年間の設置猶予を設けたことなど、まったく理解できません。猶予期間内に事故が起こり被害が出たときに、原子力規制委員ははたして責任を取れるのでしょうか」――原子力資料情報室の伴英幸共同代表は指摘する。
原子力規制委員会(田中俊一委員長、以下規制委)が六月一九日、正式決定した原発の新しい規制基準のことだ。委員会の傍聴者からは「パブコメの議論をしていない」「海外に恥をさらしますよ」などの怒声が飛んだ。しかし規制委は「非常に短期間ではありますが、非常に密度の高い、さらにサイエンティフィックで、あるいはテクニカルで十分な議論がなされたものと考えております」(中村佳代子委員)などの意見を受けて正式決定。政府は二日後の二一日、この新規制基準を閣議決定し、施行日は七月八日となった。
原発再稼働の動きは一気に加速している。〈施行後、最大6原発12基が再稼働に向けた安全審査を申請するとみられている〉〈早期申請が見込まれるのは、四国電力伊方原発3号機(愛媛県)▽北海道電力泊1~3号機(北海道)▽関西電力高浜3、4号機(福井県)▽同大飯3、4号機(同)▽九州電力玄海3、4号機(佐賀県)▽同川内1、2号機(鹿児島県)〉(『産経新聞』六月二〇日付)
〈ただ、第1陣に間に合ったからといって、早く審査を受けられるとは限らない。規制委の審査チームが三つしかなく、どの原発を優先するかも見通せない〉(『毎日新聞』同朝刊)との見方もあるが、審査期間を短縮させようとする、“反則技”的な動きも顕著だ。
〈茂木経済産業大臣はBS―TBSの番組で、型が似ている原子炉は同時に審査を進めることも可能であるとの認識を示しました。/「原発は型が似ているものと違うものがあるので、おそらく似ている炉についてはパッケージで審査をすることも可能と思う」(茂木敏充経産相)〉(TBSホームページ、同二〇日)
〈原子力規制委員会の田中俊一委員長は21日の衆院原子力問題調査特別委員会で、原発の再稼働に向けた新規制基準の審査期間について「6カ月程度かかるが、短縮の方向で努力する」と述べ、前倒しする方針を明らかにした〉(『毎日』同二二日付朝刊)
前出の伴共同代表はこう憤る。
「福島の事故では同時多発的に機器が壊れる『共通要因故障』により制御が不能になりましたが、新基準では、『共通要因故障』も外部電源喪失など、ほんの一部でしか導入されていません。危険です」
地震対策はどうか。
「震災前の審議過程を検討すると、高速増殖炉『もんじゅ』(福井県敦賀市)や関西電力大飯原発などで、近くの活断層を無視したり分断して影響を小さく見積もるなどの“値切り”をしている。公開で最初から審議しないといけないが、そもそも原子力規制庁に精査する能力があるかどうかが問題。前身の原子力安全・保安院は、電力会社に“丸投げ”で、国会事故調査委員会に“規制の虜”と批判されていますから」(伴共同代表)
【再稼働の三年間凍結を】
こうした中、今年四月に発足した脱原発社会の構築を目指す市民団体「原子力市民委員会」(座長・舩橋晴俊法政大学教授)は六月一九日、「原発再稼働を3年間凍結し、原子力災害を二度と起こさない体系的政策を構築せよ」とする緊急提言を発表した。提言には、福島第一原発事故の実態把握と原因分析を十分行ない、重大事故対策を法制化すべきなどとする内容が盛り込まれた。また、周辺住民への被曝の影響を検証し、合意プロセスを経るべきとの指摘もされている。舩橋座長は「原発の設計から見直し、規制基準を根本から考え直す必要がある」と語った。
参院選公示直後の七月八日に施行となる新規制基準。いま一度、原発政策をどの政党に託すか、国民一人ひとりの意識が問われる。
(本誌取材班、6月28日号)