買収容疑で元陸将補逮捕――“ヒゲの隊長”に不祥事続々
2013年8月26日5:56PM
防衛省正門前に立ち、憲法遵守義務を持つ防衛大臣政務官の立場を名乗った上で、内部にいる部下に向かって「憲法を取り戻す」「(自衛隊は)軍隊として…」と叫んだ“ヒゲの隊長”佐藤正久参議院議員(自民・元陸自1佐・防衛大学校二七期)をめぐり、公私混同を濃厚に疑わせる胡散臭い事実が次々と浮かんできた。
山形県警(世取山茂本部長)は七月三〇日、元陸将補で陸自第一一旅団長(札幌市)という自衛隊高級幹部出身者の松川史郎氏(五九歳)を公職選挙法違反の疑いで逮捕した。地元『山形新聞』などの報道によれば、松川氏は部下の元隊員一〇人にそれぞれ現金数千円を渡して票取りまとめを依頼した疑いがあるとされる。
松川氏は防衛大二〇期卒で、第六師団副師団長兼神町駐屯地司令(山形県東根市)や富士学校副校長(静岡県小山町)、中央業務支援隊長兼市ヶ谷駐屯地司令(東京)という大部隊の指揮官を歴任、二〇一一年に退職し、同年三月から(株)ニコン(木村眞琴社長)に嘱託社員として天下り中だった。取材に対して同社は、「当社の嘱託社員が逮捕されたことを重く受け止めています。事実関係を確認のうえ、厳正に対処いたします」(広報・IR部)と回答した。
松川氏は元陸将補・後藤英二氏(防衛大一三期)と入れ替わりでニコンに天下り。ニコンによれば松川氏のほかにもうひとり自衛隊出身者が在籍しているということだが、氏名や元の職責は不明。
ニコンは三菱系の会社で、軍事用の照準器などを防衛省に納入。「従軍慰安婦」の女性をテーマにした写真家・安世鴻氏の写真展を突如中止したことでも知られる。
松川氏の容疑について『山形新聞』はまた、「山形県隊友会」(阿部昭夫会長)という自衛隊退職者や現職自衛隊員ら約八万人でつくる公益社団法人・隊友会(事務局・防衛省内、西元徹也会長=防衛大三期)の下部組織の役員に、同氏がはがきで選挙協力を依頼した、とも報じている。公のために活動すべき公益法人が特定の政治家の支援に動いた疑いもある。
隊友会の機関紙『隊友』(月刊)には、今年一月から七月まで八回連続で「防衛省は今 佐藤正久防衛大臣政務官に聞く」という記事が一面に掲載されている。国会議員を取り上げた同様の企画は、過去一年間の同紙を見る限り、ない。
佐藤氏は「隊友会相談役」でもある。「元1佐」「政務官」「相談役」といった立場を利用して、選挙に有利に働くよう『隊友』を使った疑いは濃いというべきだろう。二〇〇七年夏の参院選に出馬した際も、自衛隊の事実上の機関紙『朝雲新聞』が佐藤氏の記事を多数回連載した経緯があった。
【収支報告「ゼロ」】
松川氏の事件とは別に、政治資金のずさんな処理も明らかになった。福島市に事務所を置く「福島地区さとう正久を支える会」(福島県選挙管理委員会届出・渡邉和裕代表)が、医療法人社団・敬愛会から事務所を賃借しているにもかかわらず、その家賃を政治資金収支報告書にいっさい記載していなかったのだ。事務所費はゼロ。家賃だけでなく、光熱費・通信費なども計上されていなかった。「別の団体が肩代わりして払っている」と事務所は説明するが、肩代わりであれば寄附を受けた旨を記載しなければならない。不正確な収支報告であることに違いはなく、政治資金規正法で禁止する虚偽記載に抵触する恐れもある。
松川氏の逮捕や事務所費の件で説明を求めるべく筆者は「ヒゲの隊長」の事務所に質問を送り、あわせてパーティ券に関する質問もした。大臣規範によれば、大臣・副大臣・大臣政務官が在任中に大規模な政治資金パーティを開くことを自粛するよう決めている。佐藤正久後援会(代表・森勉元陸幕長=防衛大一四期)は過去二〇〇九年から一一年にかけて、毎年一三〇〇万から一七〇〇万円のパーティ券収入を得ていることから、政務官就任後も同規模のパーティを開催したのかどうか尋ねた。本稿締め切りまでに回答はない。
(三宅勝久・ジャーナリスト、8月9日号)