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アマゾンの“値引き販売”に待った!__再販制度が崩壊すれば出版文化は危機に(高須次郎)

2013年9月27日3:39PM

 大手インターネット通販サイトのアマゾン社(Amazon.com Int’l Sales, Inc.)が二〇一二年八月から学生を対象に書籍の定価の一〇%をポイントとして還元することは、出版社が決定した定価での販売を書店に義務づける再販売価格維持契約に違反する値引き行為にあたるとして、中小出版社九七社が加盟する日本出版者協議会(出版協)は昨年一〇月以来、三度にわたり同社に中止を求めてきた。

「(出版協は)契約当事者ではない」との理由で同社は回答を拒否。現在までサービスを継続しているため、出版協加盟社のうち五一社は同社に対し問題の「Amazon Studentプログラム」から自社商品を一カ月以内に除外するよう求める申入書を八月七日までに送付した。除外しない場合には再販契約に従い、取次店に対し自社出版物の同社への出荷停止を指示することもある旨の警告をしている。除外を求めた五一社の点数は四万一七四〇点、アマゾンデータベース約七〇万点の六%だ。

米アマゾン社CEOが『ワシントンポスト』買収へ。アマゾンによるメディア支配の始まりか。(提供/AP・AFLO)

 読者にとって、ポイント制による値引き販売は歓迎すべきことで、出版社がなぜ反対するのか理解に苦しむ向きも多いだろう。だが、学問芸術といった人間の知的創造物である著作物を書籍・雑誌などによって伝達する行為は、一国の学問芸術、文化の普及ないし水準の維持に欠かせないものだ。多種多様な著作物が普及し、国民に均等に享受されること。離島・山間・僻地などを含め全国どこでも同じ値段で購入できることが、社会の公正・公平な発展に役立つ。

 その意味で、書店による値引きを禁じた再販売価格維持制度(再販制度)は、著作物の普及という文化的、公共的、教育的役割を果たすのに適しているとされ、独占禁止法制定後も著作物については例外的に許されてきた。そして再販制度のもとに、出版社、取次店、書店は再販契約を結び、その遵守を約している。

 再販制度=定価販売によって、本の定価は物価の優等生といわれるほど安定し、返品可能な委託販売制度と相俟って、出版物の安定的な再生産を確保し、出版物の多様性と読者の知へのアクセスを保障、言論・表現の自由という私たちの社会のもっとも基本的な価値を守ってきた。

 また出版物は、生鮮食品などの商品と違い、同じテーマ(例・原発)を扱ったとしてもそれぞれで内容が異なる“非代替性”が強い商品で、一人の読者が同じ本を反復消費することが少ない。したがって多種多様な出版物が生産供給されることで読者は利益を得られる。

 著作者の収入となる印税は、本の定価と印刷部数で支払われているが、再販制度が崩壊し、寡占取次によって買い叩きが行なわれるようになれば、印税も不安定かつ減少することが予想される。結果、企画は売れ筋に集まり、“売れない”とされる硬い本は排除され、そういった出版物を多く出す中小出版社の経営は苦しくなるだろう。

「Amazon Studentポイント」は学生に限定されているが、一〇%という高率のポイント還元がすべての読者に拡大されることになれば書店への影響は決定的になる。すでに書店間のポイントサービス合戦を誘発しつつあり、その原資は結局、出版社に転嫁され、本のカバープライス(定価)が上がる。

 アマゾンが高率のポイント還元ができるのは、日本の法人税や消費税を払ってないからという指摘もある。書店の営業利益が〇・三%程度しかない現在、ポイント合戦に耐えられない書店は消えるしかない。長期の出版不況で書店数はピーク時の二万三七七六店(二〇〇〇年一二月)から約四割減少し、一三年五月には一万四二四一店になった。丸善、ジュンク堂書店、リブロ、ブックファーストなど有名な全国書店が経営危機に陥り印刷資本や取次店の傘下となり、アマゾンの独り勝ちが続いている。消費税値上げはアマゾンをさらに有利するだろう。

 回答期限の八月二〇日、アマゾン社は回答を拒否。今後、アマゾン社への卸元である取次店の回答次第では出荷停止に踏み切る予定だ。
(たかす じろう・一般社団法人日本出版者協議会会長。緑風出版代表。9月6日号)

 

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