先住民が水銀汚染報告――被害続くカナダ水俣病
2013年10月3日6:39PM
「水銀の排出が禁止された後も、私たちの伝統食である魚や野生動物の水銀汚染は続いている」
カナダ北東部にある森と湖に覆われたオンタリオ州のイングリッシュ・ワビグーン川沿いの先住民居留地グラッシー・ナロウズ(GN)から訪れたジュディ・デ・シルバさんが九月一三日、東京都内で開かれた「チッソと国の水俣病責任を問うシンポジウム実行委員会」主催の報告会で水銀被害を訴えた。
ジュディさんによると、上流二〇〇キロメートルの製紙工場が排出した水銀汚染が見つかったのは一九七〇年代。カナダ政府は、七五年に工場の水銀排出を禁止したが、漁業や環境に打撃を受けた。八六年には国と州と製紙会社が水銀障害基金と委員会を設置。先住民は神経科医の診断を受けて補償を求めることができるという。
現地を知る熊本学園大学の花田昌宣教授によれば、少なくともGNなど二つの居留地の登録人口三〇〇〇人のうち約二五〇人が、月二五〇から八〇〇ドルの補償を受けている。日本で発生した初期の水俣病のような重症患者はいないものの、花田教授は「日本の狭い認定基準が輸出されている」問題を指摘している。
カナダ政府の公表資料によれば、同国では今でも年間三〇〇キログラム(kg)前後の水銀が水域に排出されている。翻って日本はどうか。環境省が毎年集計する化学物質排出データを見ると、二〇一一年現在、日本全国で水銀を扱う三一二五事業所のうち、二六八事業所が河川や海などに計一五五kgを、五事業者が大気に計一一kgを排出している実態がある。国連環境計画の調査で水銀汚染は北極や南極に移動することがわかっており、削減に向けた国際協力は不可欠である。
水俣市では一〇月九日から三日間、排出削減に取り組む「水銀に関する水俣条約外交会議」が開催されるが、汚染の原状回復措置義務の欠落や法的拘束力の弱さが指摘されている。今後、日本政府がどう国内規制を強化し、諸外国の被害者への目配りを利かせるかが注目される。
(まさのあつこ・ジャーナリスト、9月20日号)