発足一年の原子力規制委――安全より再稼働優先に疑問
2013年10月9日7:09PM
原子力の安全確保に関する規制の一元化を図る目的で設置された原子力規制委員会・規制庁が九月一九日、発足一年を迎えた。しかし、「安全確保」はなされず、再稼働への舵取りが進められている。
原子力規制を監視する市民の会では一年前から、規制委人事の撤回運動を行なってきた。「利用と規制の分離」という規制委設置法の趣旨に反し、委員の多くが原子力ムラの関係者だったからだ。これでは厳格な規制行政はできず、逆に原発再稼働の正当化に利用されるだけとの危惧は現実化している。
昨年一二月以降、規制委は再稼働のための新規制基準づくりに邁進。検討チームは原子力関係者で固め、批判的な専門家は排除した。被災者や立地地域住民から意見を聴く機会は設けず、パブリックコメントもほとんど反映しなかった。今年七月に基準ができると次は、再稼働のための適合性審査を同時並行で強引に進めている。
喫緊の課題である汚染水流出事故の対応はどうか。今年初め、規制委が基準作りに没頭していた時期は、東京電力が地下水の放射線測定を怠り、タンクからの汚染水漏れを隠していた時期に重なる。新基準の担当は更田豊志委員だが、汚染水に対応できるのも委員の中では更田委員のみだ。再稼働シフトが事故対応を遅らせた形だ。
この間、汚染水事故に国側で対応していたのは規制委ではなく、経済産業省資源エネルギー庁であった。「安全問題」ではなく廃炉事業の一環で「事業」として取り組んでいたのだ。経産省が設置した委員会はゼネコンのプレゼンの場となり、「商業上の理由」で会合は非公開。規制庁職員が委員に入ってはいるが、助言を行なうだけだ。
今年六月以降、海への汚染水流出が問題となり、八月になってようやく規制委は自前の検討チームを立ち上げた。しかし、規制委はあいかわらず、原発再稼働のための適合性審査に没頭しており、汚染水対応は経産省に主導権を握られたままだ。新規制基準では、重大事故時の汚染水対応は十分考慮されておらず、その面でもいま適合性審査を続ける意味はない。
田中俊一委員長は発足一年の挨拶で「安全文化」を語っているが、それよりも目の前にある最大の安全上の問題に正面から向き合い、これに集中することが先だろう。
(阪上武・原子力規制を監視する市民の会、9月27日号)