国家戦略特区は「憲法番外地」(宇都宮健児)
2013年10月17日4:49PM
「国家戦略特区」の名のもと、大規模な生活破壊が進みつつある。狙いは何か。弁護士の宇都宮健児氏に特区の全体像を語ってもらった。
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安倍政権は、第三の矢「成長戦略」の要として「国家戦略特区」構想を打ち出し、具体化しようとしている。
政府の産業競争力会議の議論を踏まえて、二〇一三年五月九日、国家戦略特区ワーキンググループ(WG)が設置され、雇用や医療、教育、農業などの特区構想が検討されてきている。産業競争力会議は、九月二〇日、WGの検討結果を踏まえて、雇用、医療、教育、農業など国家戦略特区に関する一五項目の規制改革案を提示している。
提示された「雇用特区」の概要は、(1)入社時に契約した解雇条件にあえば、どんな解雇でも認められるようにする(2)一定の年収がある場合などは、労働時間の規制がなくなり、残業代が出なくなる。休日や深夜労働の割増賃金もない(3)短期契約を繰り返す労働者が、五年超働いても無期転換できなくする契約を認める、などとなっている。
労働時間を規制せず残業代をゼロにする制度は「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれ、第一次安倍政権(二〇〇六~〇七年)でも検討されたが、「残業代ゼロ法案」と批判を浴びて頓挫した経緯がある。
これでは憲法二七条や労働基準法、労働契約法が定める労働者の権利は全く認められない「解雇特区」「ブラック特区」である。「雇用特区」は企業にとっては天国であるが、労働者にとっては正に地獄である。
このほか、「医療特区」では、高度な医療水準の確保を条件に海外で承認されている医薬品の混合診療を認めるとともに、病床規制を緩和し医学部を新設する。「農業特区」では、市町村が置いている農業委員会について、農地の売買や賃貸を許可する機能を市町村に移管する。「教育特区」では、公立学校の運営を民間に委託する公設民営学校を設置する、などとなっている。
これらは、秋の臨時国会に提出される国家戦略特区関連法案に盛り込まれる予定となっている。
「国家戦略特区」は、徹底した新自由主義的発想で貫かれており、いずれ特区以外の地域にも波及する可能性が高い。国家戦略特区の考え方は、現在交渉が行なわれている環太平洋戦略経済連携協定(TPP)の発想と共通するものが多い。ともに、企業はビジネスがやりやすくなるであろうが、労働者・国民の命や人権は全く軽視されることになる。
国家戦略特区もTPPも、憲法で保障されている人権を骨抜きにする「憲法番外地」を作ろうとするものである。
(うつのみや けんじ・前日本弁護士連合会会長、本誌編集委員。10月11日号)