「凍土方式」の杜撰さ浮き彫り――東電破綻処理の議論再燃か
2013年10月21日5:50PM
福島第一原発の汚染水問題で、経済産業委員会の閉会中審査(九月二七日、三〇日)において、政府の目玉対策である「凍土方式」の杜撰な決定過程が明らかになった。三二〇億円の国費が投入される「凍土方式」は、同原発をはじめ原発建設を多数受注してきた鹿島が提案、今年五月の汚染水対策委員会で最終決定したものだ。
しかし原発事故当時、首相補佐官だった民主党の馬淵澄夫元国土交通大臣は、汚染水対策の責任者として「粘土の地下遮水壁」(推定事業費一〇〇〇億円)に決定したが、二〇一一年六月の記者発表は延期され、補佐官の辞任後、計画自体の実行も見送りとなった。
“馬淵案”を予定通り進めておけば現在のような深刻な汚染水漏れを招くことはなかったのは明らかだが、三〇日の委員会で馬淵氏は、入れ替わるように浮上した「凍土方式」の決定過程について問うた。
政府の中西宏典大臣官房審議官の答弁は「総合的に検討して、凍土方式が妥当と判断」。これに対し馬淵氏が、凍土方式選定の大きな理由となった「透水係数(水をどれくらい通すかの係数)=ゼロ」の根拠を問い質すと、驚くべき回答が返ってきた。
実験やシミュレーションのデータに基づいた数字ではなく、工学的に「水が凍った場合に水は動かなくなる」という理論上のものにすぎないことを政府が認めたのだ。馬淵氏が「検討に値するのか」と首を傾げたのは当然だった。
凍土方式は、地中に埋設した冷却管が冷えて周辺の土を凍らすもの。だが、現場の土は粘土質の細かいものから荒い砂や礫、岩まである。礫や岩のところには空隙があり、そこは水がないため、凍らない。「汚染水がそこを通って流れ出す可能性もある」などと馬淵氏が懸念したのはこのためだ。
また凍土方式は、トンネル工事で土の崩落を防ぐための「土止め工法」であり、地下水の流れが少ない地点を選んで使われることも馬淵氏は指摘した上で、「地下水の実流速度を測っているか」とも聞いたが、中西審議官は「流速は測っていません」と回答。確認作業をせずに、地下水の流れが強いところでは使用されない凍土方式を選んだのだ。
しかも馬淵氏は、一方の「粘土の地下遮水壁」が、高速道路工事の遮水壁や米軍の核兵器工場でも使用された実績を有する在来工法であるとの答弁も引き出した。
その上で、政府の報告書には「(凍土壁を造っても)長期的なメンテナンスは困難になるがゆえに、その後は比較的高い遮水能力があり、維持管理が簡単な粘土による遮水壁に入れ替えを行なうことも検討するべきだ」と書いてあることも判明。「凍土方式」はあくまで“一時しのぎ”の対応だったことも露呈した。
不適切な工法選定を招く諸悪の根源は、破綻処理の議論を再燃させたくない政府の場当たり的姿勢と、安全よりもコストを重視する東京電力の経営体質にある。
新型アルプスを含め四七〇億円の国費投入が決まったが、これが東電破綻処理に直結するわけではない。資源エネルギー庁は「『凍土方式』は研究開発段階にあるため、高度な技術を有する鹿島に直に発注する。これは東電への税金投入には当たらない。一方、在来工法の『粘土の地下遮水壁』は研究開発段階にないので、東電への税金投入になる」と見ているためだ。
東電への税金投入となれば、株主や金融機関や経営陣の責任を問う「東電破綻処理」の議論が再燃するのは確実。それを避けるために、机上の理論(空論)にすぎない「研究開発段階」の凍土方式が採用された可能性が高い。これでは、福島第一原発が実験場と化す。鹿島をはじめ原子力関連企業に血税が投入されはするが、実効的な事故処理につながる保証はないのは言うまでもないことだ。
六日の民放番組「新報道二〇〇一」では、馬淵氏がリスクの過小評価につながる現在の東電の経営形態を問題視すると、自民党の塩崎恭久政調会長代理は分割案を提案。秋の臨時国会で、東電破綻処理の議論が再燃するのは確実だ。
(横田一・ジャーナリスト、10月11日号)