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50億円につりあがった朝鮮総聯本部ビルの競売――モンゴル企業落札の舞台裏

2013年11月5日5:43PM

 

一〇月一七日、マスコミ各社は、在日本朝鮮人総聯合会中央本部(東京都千代田区)の二回目の競売で、アヴァール・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー(ア社)というモンゴル企業が五〇億一〇〇〇万円で落札と速報を流した。二二日には東京地裁がア社の支払い能力などを審査する予定だったが、直前に流れた。舞台裏には何があるのか。

東京地裁が示した二回目の競売公告は基準価格が二六億六〇〇〇万円、最低価格が二一億三〇〇〇万円。今年三月二六日の一回目の入札は四五億一九〇〇万円で落札した鹿児島の宗教法人最福寺の池口恵観氏が期日内納付をしなかったため競売は不調となった。その経過については本誌五月一七日号(「断念の“裏側”を秘書が初告白」)に載せたが、二回目の今回の取材では、前回にもまさる不可解な事前情報に突き当たった。

マスコミに流れていた入札参加者の事前情報には以下の名前が上がっていた。宗教法人の誠成公倫会、アパホテル、UR都市機構、伊藤園、ミキモト、法政大学、逓信病院などだ。ところがフタを開けたら二社だけが入札に参加。しかも誰も予想していなかったモンゴルのア社が五〇億円という高値で落札。今回の経過と結果を見た大手企業のある会長は「二回目も不調で流れるよ」と断定的に語っていた。その理由は「一回目の競売で不調になっているのに二回目の入札基準価格がまったく下がっていないことが不思議だし、プロの落札者ならば、もう一回待とうということになる。しかも朝鮮総聯中央本部は政治案件物件だけに慎重にならざるを得ない」と以前から解説していた。確かに下馬評に上がった企業の名前はなかった。

しかしそれにしても、なぜモンゴルのウランバートルのア社なのか、という疑問は残る。ソウル在住のある日本人記者はア社の代表に電話取材をして「入札に参加した」ことを確認している。その一方で、NHKはモンゴル政府の税務当局の話として、ア社は金の動きもない休眠状態のペーパーカンパニーの可能性が高いとまで断定的に報道している。さてア社とはどういう企業なのか。ひとまず厳密な信憑性は横に置き、次のような情報を耳にしている。日本と北朝鮮の水面下の動きについて詳しいある事情通からの情報だ。

「ア社は××という人物が大西るみ子に働きかけて作らせたペーパーカンパニーで、大西はモンゴルに鉱山採掘の会社も持っている。この一件にはレインボーブリッヂの小坂も関与しているようだ……」。大西るみ子氏とは、北朝鮮に眠る日本人の墓参と遺骨収容活動を精力的に続けている全国清津会の事務局長。小坂浩彰氏はNGOレインボーブリッヂの代表者。どちらも民間人だ。筆者は事情通に「××氏とは飯島勲元秘書官ではないのか」と質したところ「う~ん、ノーコメント……」。

今回の落札にモンゴル政府の関与はなかったのか。拉致問題解決の糸口さえない日本と、総聯中央本部の存続を死守したい北朝鮮との外交的な裏合意を両国と深い良好関係を持つモンゴル政府が一役買った可能性はないのだろうか。

ウランバートル市内には北朝鮮企業の現地事務所が多い。日本の進出企業も多い。これまで日本と北朝鮮の政府間協議も開かれ、ある意味では、今の日朝関係はモンゴルを拠点にさまざまな交渉が進んでいると見た方が自然だろう。

前述の事情通は「現実に飯島元秘書官も拉致問題対策本部の三谷秀史事務局長もここで北朝鮮本国の高官らと裏交渉しているし、今年三月に安倍(晋三)首相が、七月には古屋(圭司)拉致問題担当大臣もモンゴルに入っている。今回のモンゴル企業の落札の裏に外交マターが絡んでいるのだろうけど、ただ……」と言葉を呑んだ。

ア社は落札決定の一七日、約五億円の保証金を納付したが、二二日東京地裁は「審査延長」を理由に、ア社の決定を見送った。その理由は、債権者のRCC(整理回収機構)がア社の企業活動の実態と資金背景を問題視したためといわれている。

(成田俊一・ジャーナリスト、10月25日号)

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