被災地の巨大防潮堤建設問題――安倍昭恵氏が見直し呼びかけ
2013年11月18日5:48PM
被災地の巨大防潮堤(総事業費八〇〇〇億円。総延長距離三七〇キロメートル)を検証する集会「東北の美しい未来を考えるフォーラム」が一〇月三一日、衆議院第一議員会館で開催され、約三八〇人が参加した。
冒頭で主催者の一人で安倍晋三首相の妻である安倍昭恵氏が挨拶、「防潮堤はどこに必要で、どこは必要でないのかをみんなで考え直したい」と趣旨を説明。巨大防潮堤による景観破壊や、海が見えなくなることによる危機感喪失の問題点を指摘し、「『本当に防潮堤を作っていいのだろうか』『本当に美しい日本の復興なのか』ということを考え直してほしい」と訴えた。
続いて「巨大防潮堤についての検証」と題し首都大学東京の横山勝英准教授が講演。「仙台平野とリアス式海岸の違いが(根拠となる)法に反映されているのか。一〇〇万都市を抱える仙台平野では防潮堤建設で四~五キロの(背後地の)浸水を防げるため、費用対効果は非常に大きい。しかし、リアス式海岸では守る場所が非常に狭く、しかも高台移転で法律上住めない場所になっている」と費用対効果の乏しさを指摘。高台移転と巨大防潮堤が“二重投資状態”であり、人の住めない危険区域の田畑などを守るために防潮堤建設費を投じる愚行ぶりを浮彫りにした。
これを受ける形で「防潮堤を勉強する会」発起人の安藤竜司氏(宮城県気仙沼市)も、こう訴えた。「海とともに気仙沼を再建しようとしてきたのに、国や県の役人から『中央防災会議で決まったことだから巨大防潮堤を受け入れないと駄目』と言われる。再建に向けて努力する気持ちを折られてしまう。“復興災害”と呼んでもいいくらいで、今こそ政治の力で『巨大防潮堤はおかしい』と言ってほしい」。
すると、昭恵氏の紹介で集会に参加した自民党の片山さつき参議院議員は「巨大防潮堤がリアス式海岸にも必要なのかは疑問。環境委員会など国会で取り上げるべき」と意気込んだ。
気仙沼などの防潮堤の建設予定地を視察するなど、この問題に精力的に取り組む昭恵氏は一一月二日にも、東日本大震災で壊滅的被害を受けた岩手県大槌町を訪問し、碇川豊町長と意見交換。翌日は同町の住民有志による「まちづくり文化祭――おらだぢのまちはおらだぢでつぐっぺ!」に参加、ここでも挨拶をした。
大槌町は巨大防潮堤見直しの“発祥地”でもある。「赤浜の復興を考える会」(川口博美会長)がリードする形で住民が話し合いを重ね、行政が決定した巨大防潮堤の高さを低くする計画見直しを勝ち取ったためだ。そのコンセプトは「津波に強い街づくりではなく、津波に強い人づくり」(川口氏)。巨大防潮堤に頼るハード一辺倒ではなく、防災訓練などソフトを重視する発想。この成功事例を学ぼうとして防潮堤見直しのネットワーク「海の民連絡協議会」や「防潮堤を勉強する会」などの住民団体が三陸沿岸で発足していった。
小さい町ながら先駆的な動きが起きた大槌町では、行政主導のコンクリート(ハード)中心の復興事業から、住民と行政が協同する形に転換しようとする試みも始まった。それが、「住民まちづくり運営委員会」が呼びかけた三日の会合。約三時間半の大半が、隣の釜石市を含む地域住民のフリーディスカッションで、体育館に並べられた机を囲んで巨大防潮堤を含む街づくり全般について自由に議論をしていったのだ。
冒頭で成功体験を話したのが、一九九九年の台湾の大地震で被害を受けた桃米里村の鐘雲暖氏。この村では震災後、住民が議論を繰り返す中で合意に達し、「観光と農業を二本柱にした地域興し」に取り組み、自然を活かしたエコツアーなどで村民の収入が増えたという。
三時間半に及ぶ会合の最後を、昭恵氏がこんな感想で締めた。「大槌がモデルケースになって、過疎や高齢化に直面する全国の自治体を励ましてほしい。主人にも伝え、国が支援するようにしたい」。
巨大防潮堤などの行政主導のコンクリート中心の復興事業を、安倍政権が見直すのかが注目される。
(横田一・フリージャーナリスト、11月8日号)