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日本国憲法の源流と改憲論議への“気がかり”――「五日市憲法」に触れた皇后

2013年11月22日6:38PM

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五日市憲法「国民ノ権利」の項目。(撮影/野中大樹)

  天皇に手紙を渡した山本太郎参議院議員の言動が「(天皇の)政治利用」ではないかと物議をかもしている。そんな中、この一〇月に七九歳の誕生日を迎えた皇后が言及した「五日市憲法草案」について、発見者の一人で専修大学教授の新井勝紘氏が取材に応じた。 新井氏は「政治利用されるのはよくない」とした上で、「皇后という地位には関係なく、ごく普通の人間があの憲法草案を読んで感じる、素直な反応だと思う」と話した。

 明治期の自由民権運動期に生み出された五日市憲法草案。東北に生まれ、後に神奈川県(現東京)西多摩の五日市に移り住んでいた千葉卓三郎が、地元の青年たちと議論をかさねて練りあげた。全二〇四条におよぶ条文は、民権運動期に生まれた多くの憲法のなかでも、とりわけ民主主義の色合いが濃いことで知られている。

 その「国民の権利」の項目には、「日本国民は各自の権利自由を達すべし、他より妨害すべからず、且つ国法これを保護すべし」とある。国の法律は国民の権利を守るためにこそあるのだという考え方は、現行日本国憲法の「国民主権」に通ずる。

 また、「日本国に在居する人民は、内外国人を論ぜず、その身体生命財産名誉を保固す」という文言もある。ヘイトスピーチ(差別扇動表現)など排外主義が吹き荒れる現代を見越したような文言だ。

 皇后が宮内庁記者会の質問に寄せた回答文書には、こうある。

〈今年は憲法をめぐり、例年に増して盛んな論議が取り交わされていたように感じます。(中略)「五日市憲法草案」のことをしきりに思い出しておりました。(中略)当時これに類する民間の憲法草案が、日本各地の少なくとも四〇数か所で作られていたと聞きましたが、近代日本の黎明期に生きた人々の、政治参加への強い意欲や、自国の未来にかけた熱い願いに触れ、深い感銘を覚えたことでした。(中略)市井の人々の間に既に育っていた民権意識を記録するものとして、世界でも珍しい文化遺産ではないかと思います〉

 現行日本国憲法は戦後GHQから押しつけられたものだとする主張があるが、実際はそうとも言えない。「今の日本国憲法は形としては押しつけられたもののように見えるけれども、基本的人権や国民主権という考え方の源流をたどると一八八〇年代の自由民権期の憲法草案にいきつく」(新井氏)

 皇后が東京・あきる野市にある五日市郷土館を訪れたのは昨年の一月。同館には、千葉が執筆した「タクロン・チーバー氏法律格言」も展示されている。これは当時、世界の「法律格言」(元老院蔵版)の中の王位や皇帝を中心にした箇所を、千葉が、国民を中心に据えたものに読みかえたものだ。

「国王ハ決シテ死セズ」(前述の『法律格言』)とあったところを、千葉は「国王ハ死ス国民ハ決シテ死セス」とかえている。この点は、天皇を「元首」に位置づける自民党憲法改正案の考え方とは、およそ正反対の発想だと言っていい。

 皇后が述べる「例年にも増して盛んな論議」とは、自民党の改憲へ向けた動きとみて間違いない。

 新井氏も「『象徴』が『元首』となれば、自分たちの地位にも直接かかわってくる。皇后の五日市憲法への言及は、今の憲法をめぐる状況を気がかりに感じておられるためではないか」と語る。

 五日市憲法が発見されて四五年。皇后の言及もひとつの契機に、生まれた背景や、込められた普遍的な価値を見出したい。

(野中大樹・編集部、11月8日号)

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