Tシャツ文字で高裁が入庁拒否――被告を排除し判決
2013年12月16日7:18PM
廷吏の言葉に筆者は耳を疑った。一一月一九日午後三時。東京高裁四二九号法廷は、路上生活者排除に抗議したことで威力業務妨害罪に問われた園良太氏の控訴審を控えていた。傍聴席は三七。まだ一〇席ほどしか埋まっていなかった。傍聴希望者は五〇人以上いたので抽選が行なわれ、当選者に傍聴券が配られた。だから空席があるはずはない。法廷内にいるべき被告人・園氏の姿もなかった。
ガラガラの法廷に制服の警備員が七人。法廷外にはおよそ三〇人もの警備員や裁判所職員がいた。ロビーには物陰に潜むような仕草の私服警官もいる。
なぜ開廷なのか。傍聴人の戸惑いをよそに、八木正一裁判長(陪席裁判官は川本清厳・佐藤正信の各氏)は「時間ですので」と小声で開廷を告げ、「控訴棄却。懲役一年執行猶予三年」の有罪判決を読み上げた。東京都江東区役所の暴力的な野宿生活者排除に対し、同区役所に抗議を申し入れようとした行為が「威力業務妨害」にあたるという、戦後の司法試験に受かったとは思えない乱暴な判決だ。
傍聴席がガラガラだったわけは閉廷後に判明した。園氏や傍聴券当選者らが着ていたTシャツに、一文字四センチ角ほどの大きさで「YES! 抗議 NO! 排除」とあった。それが「メッセージ」にあたるとして入庁を拒否され、自らの判決を聞く機会も奪われたのだ。多数の警備員が「人間の壁」をつくり、敷地に一歩も入れなかった。庁舎管理権者である渡部勇次東京高裁事務局長の判断だ。
問題のシャツの柄は地味なもので、「これがダメなら“スカッと爽やかコカ・コーラ”もだめなんですか」と抽選にハズれた傍聴希望者は失笑した。衣服の柄で入庁拒否というのは前代未聞。数十人の公安警察官に見守られ、園氏らは傍聴券を掲げて「傍聴させろ」というしごく当然の権利を訴えた。
(三宅勝久・ジャーナリスト、11月29日号)