マスコミ黙殺の本庄保険金殺人で大きな動き――新たに死因の再鑑定へ
2014年1月21日8:17PM
1999年頃に熾烈な報道合戦が展開された埼玉県本庄市の保険金連続殺人事件から十余年。主犯格として殺人罪などに問われ、無実を訴えながら2008年8月に死刑確定した八木茂氏(64歳)の再審請求即時抗告審で新たに大きな動きがあった。しかし、マスコミがそろって黙殺する異様な事態が続いている。
八木氏は死刑確定後、09年1月にさいたま地裁に再審請求し、10年3月に請求を棄却されたが、現在東京高裁に即時抗告中。弁護側はこの間、八木氏が95年に愛人女性らと共謀し、トリカブトで毒殺したとされる知人の佐藤修一氏(当時45歳)の死因が実際は「溺死」だと複数の専門家の意見をもとに主張してきた。
そして昨年12月11日、ついに東京高裁が佐藤氏の死因の再鑑定を行なうと決定。同20日に東京・霞が関の司法記者クラブで会見した弁護団によると、「再鑑定では、保管された臓器に含まれるプランクトンの量から溺死と認められるのは確実」。これにより、遺体が川で見つかった佐藤氏が自殺だったとする弁護側の主張が法医学的に裏づけられ、再審が始まるのは確定的という。だが、この重大発表に関する報道は皆無だ。
実はこの事件は元々、捜査段階の報道の印象とは裏腹に証拠が乏しい。たとえば、八木氏らの関係各所でトリカブトが押収されたという報道(『読売新聞』00年10月20日付朝刊)や、佐藤氏の死亡時に見つかった遺書が八木氏の愛人の筆跡と酷似していたという報道(『朝日新聞』同年10月20日付夕刊)は八木氏らへの偏見を広めたが、そんな事実は存在しないと裁判で判明済みだ。
マスコミはこんな数々の誤報を垂れ流したまま、八木氏の死刑が妥当なように報じてきたのだが、再審の重大な新展開も黙殺してしまうのだろうか。再審の行方と共に報道のあり方も注目される。
(片岡健・ルポライター、1月10日号)