巨大防潮堤問題に首つっこむ安倍昭恵氏の本気度は?――首相の見直し発言に妻の尽力
2014年3月31日5:58PM
安倍晋三首相は3月10日の参院予算委員会で、巨大防潮堤見直し問題を取り上げた片山さつき参院議員の質問に対して、踏み込んだ答弁をした。
「(大震災)発災直後の気持ちがだんだん落ち着き、住民の意識も相当変わってきた。今後、見直しも自治体と相談しながらよく考える必要がある」
質問の冒頭で片山氏は「この問題を長らく追っかけている安倍昭恵夫人にも(自民党)環境部会に来ていただいた」と紹介、昭恵氏が防潮堤見直し発言をした記事を配布資料に添付もしていた。「家庭内野党」と自称する昭恵氏の見直し論を、夫の安倍首相が受け入れた形なのだ。
2月7日に昭恵氏は、宮城県気仙沼市で開かれたシンポジウム「東北の美しい未来を考えるフォーラムin気仙沼」にも出席。高校生を含む住民150人からの「海の見えない気仙沼は想像できない。森の養分が海へ流れなくならないか」などとの声を受け、「行政の施策に魅力がないと若い人が離れてしまう。見直すべきところはあるので主人にも伝えたい」と発言していた。
気仙沼市のシンポを主催したのは、巨大防潮堤見直しを求める市民団体。シンポの前日の6日にも昭恵氏は、見直し派住民の案内で気仙沼市本吉町野々下で建設中の巨大防潮堤(事業費約30億円)を視察し、海岸にそびえ立つ高さ約10メートルの防潮堤を見て驚きの声をあげたという。
視察に同行した気仙沼の若手の漁民はこう話す。「この地区は工事が始まった時期が早く、北海道奥尻島と同様、防潮堤が海の景観破壊をしている現場を三陸沿岸でも目の当たりにできます。建設予定地周辺からは、『防潮堤で何を守るのかね』と首を傾げる声も出ている。防潮堤は海岸の美しい景観を壊すだけでなく、陸から海への地下水の流れを遮断、沿岸漁業への悪影響もあります」。
こうした建設現場を昭恵氏自らが訪れ、地元の声に耳を傾けて夫に進言したことが、今回の首相発言につながったようにもみえる。
「防潮堤について真面目に考え、覚悟を持って取り組んでくださっている偉い人は昭恵さん以外、僕は知りません。多くの偉い方々が被災地に来ましたが、具体的な動きにつながるわけではない。それに比べ昭恵さんは積極的に行動しています」(若手の漁民)
見直し派が昨年9月に東京で開催した防潮堤問題のシンポにも、昭恵氏は参加。集会後に説明を受けた際、「被災地に来る偉い人と昭恵氏も同じではないか」と疑われ、「どこまで本気でやるのですか」と覚悟を問われた。それでも昭恵氏は被災地視察を続け、10月31日には自ら主催者の一人となった集会で防潮堤見直しを訴えるなど(本誌11月8日号で紹介)、本気で取り組むようになったのだ。
昭恵氏と連携する片山氏は先の予算委で、同じように人が住まないところに建設中の気仙沼市中島海岸(小泉地区)の巨大防潮堤を取り上げた。「宮城県は、住民が高台移転しても農地の利用先が決まっていなくても『やりたい』という強い希望」と指摘し、長さ700メートルで事業費が230億円であることも問題視。静岡県浜松市で工事が始まった緑の防潮堤(17・5キロで300億円)に比べ、長さ当たりの事業費が10倍以上高いというのだ。
本吉町の防潮堤も中島海岸と同様、人の住まない所に建設され、守るものは海岸林と畑ぐらいしかない。建設業者と地主のために、景観破壊や漁業への悪影響を伴う防潮堤に巨費が投入されている。
同じく気仙沼市大谷海岸で活動する三浦友幸氏はこう話す。「津波被害を受けた奥尻島の方は『防潮堤建設は一番最後で良かった』と話していました。どんな街にするのか話した上で、防潮堤がいるかいらないかを議論することが大事なのではないでしょうか。人が住まない街では意味がない」。
首相発言を機に防潮堤建設をいったん凍結し、必要性や住民合意の実態や漁業への悪影響などをまずは徹底検証することが必要だ。
(横田一・ジャーナリスト、3月21日号)