ビルマ・ティラワ経済特区――移転で生計確保困難
2014年4月10日5:09PM
「補償金でまず家を作った。その後、仏壇と台所を作るのに補償金を使い切ってしまった。今は仕事もなく借金だらけ」(62歳男性)
日本が官民を挙げて進める「ビルマ・ティラワ経済特区開発事業」において、その先行開発区域であるフェーズ1(400ヘクタール)では、68世帯(約300人)が移転を強いられた。これにより、住民は生計手段を奪われ、以前より苦しい生活を余儀なくされている。冒頭は、その住民男性の訴えだ。
ビルマの最大都市ヤンゴン近郊の約2400ヘクタールを経済特区とする同事業フェーズ1は、三菱商事・住友商事・丸紅など日本の共同企業体が、昨年11月に土地造成作業を開始。国際協力機構(JICA)が現在、政府開発援助(ODA)の民間向け「海外投融資」として、支援を検討中だ。
昨年1月末、住民らの家に突然、「14日以内に立ち退かなければ、30日拘禁する」という書面が貼られた。この事態を問題視した住民とNGOの働きかけで、あまりに急な強制移転という最悪の事態は回避されたが、その後、「合意」手続きを踏んで移転したはずの住民の生活の回復は難航を極めている。
彼のように以前、日雇いの仕事をしながら、家の周辺で野菜などを作ってきた世帯は少なくない。しかし、元の場所から約6キロメートル離れた移転地で、新たな仕事を見つけるのは困難。移転地での各世帯の区画は互いに密接しており、野菜は植えられない。当局の職業訓練も成果はあがらぬままだ。農地を失った農民も、新たな生活の糧を見つける必要がある。
このため、地元住民らはJICAに書簡を提出し、生活水準の回復を訴えてきた。しかし、JICAは移転の一義的な責任は現地政府にあるとしている。
民政化後初の大型案件である同事業は、国際的な関心も高い。国連特別報告者も2月に同地を視察し、懸念を表明した。JICAは住民の声に耳を傾けるべきだ。
(土川実鳴・メコン・ウォッチ、3月28日号)