これ以上の拘置は、「正義に反する」――再審決定で、袴田さん釈放!!
2014年4月17日4:56PM
弁護団が「よくここまで踏み込んだ」と驚くほど画期的な内容だった。死刑判決が確定しながら冤罪を訴え続けていた元プロボクサー袴田巖さん(78歳)に対し、静岡地裁(村山浩昭裁判長)は3月27日、再審開始を決定した。事件発生から48年近く。ようやく開いた雪冤の扉に、弁護団や支援者は興奮と歓喜に包まれた。
特筆されるのは、決定が再審の開始、死刑の執行停止にとどまらず、拘置の執行停止(釈放)まで認めたことだ。村山裁判長は、「拘置をこれ以上継続することは、耐え難いほど正義に反する状況にあると言わざるを得ない」と断じた。これを受けて袴田さんは同日、東京拘置所から釈放された。
決定はその理由を、(1)再審で無罪判決が下される相当程度の確実性が認められる(2)判決確定以来、33年以上も死刑執行の恐怖にさらされてきた――などと列挙した。決定にあたっての地裁のスタンスが、ここに象徴されている。
袴田さんが犯人とされた「袴田事件」は、1966年6月に静岡県で起きた。味噌製造会社の専務宅で一家4人が殺害され、放火された。1カ月半後、住み込み従業員だった袴田さんが強盗殺人などの容疑で逮捕される。捜査段階でいったん犯行を自白したものの、公判では一貫して否認。しかし、静岡地裁は死刑を言い渡し、80年に最高裁で確定した。
今回の第二次再審請求審で最大の争点になったのは「5点の衣類」だった。事件発生から1年2カ月も経って、味噌工場の醸造タンクから血痕の付着した状態で見つかったシャツやズボンなどである。当初はパジャマとしていた袴田さんの「犯行時の着衣」を検察はあっさりこれらに変更。裁判所も死刑判決の拠り所にしていた。これに対し、地裁の決定が再審開始の要件となる「無罪を言い渡すべき新規・明白な証拠」と認定したのは、DNA鑑定と味噌漬け実験だ。
再審請求審で実施されたDNA鑑定では、被害者ともみ合った際に付いたとされたシャツの血痕が本当に袴田さんのものかが焦点になり、弁護側、検察側の両鑑定人が「袴田さんの型とは一致しない」との結論を出した。殺害時の返り血とされた血痕についても、弁護側鑑定人は「被害者の血液は確認できなかった」と分析した。
地裁決定は弁護側鑑定の信用性を重視し、「5点の衣類の血痕は、袴田さんのものでも、被害者4人のものでもない可能性が相当程度認められる」と判断した。
味噌漬け実験は、人の血液を付けた衣類を1年2カ月も味噌に漬けるとどう変化するか証明するため、弁護団と支援者が実施。発見直後の5点の衣類は、血痕が識別できるほど着色の度合いが薄かったが、実験で長期間味噌に漬けると、衣類は味噌とほぼ同色にムラなく一様に染まることがわかった。
地裁決定は実験結果をもとに「5点の衣類の色は、長期間味噌の中に隠匿されていたにしては不自然である」と述べた。
袴田さんには小さくてはけなかったズボンについても「袴田さんのものではなかったとの疑いに整合する」と言及。これらを踏まえて「5点の衣類が袴田さんのものでも犯行着衣でもなく、後日捏造されたものであったとの疑いを生じさせる」と指摘し、「再審を開始すべきだ」と結論づけた。
決定に対する弁護団の評価はきわめて高い。西嶋勝彦弁護団長は3月30日の報告集会で「素直な目で証拠を見た上での常識的な判断。司法に正義を取り戻すという強いメッセージを感じる」と話した。
【検察は即時抗告】
ただ、これで袴田事件が「解決」したわけではない。検察は31日、東京高裁に即時抗告した。再審が開始されるまで、さらに数年かかることにもなりかねない。
事件が示した課題に対応していくことも必要だ。西嶋氏は、冤罪を生んだ裁判所の改革や、死刑廃止の議論などを挙げた。警察や検察、発生当時に犯人視報道を展開したマスコミの責任も検証されるべきだろう。教訓をどう生かしていくかが問われている。
(小石勝朗・ジャーナリスト、4月4日号)