インサイダー疑惑まで出たJAL再上場の怪――参院自民党から立法の動き
2014年5月8日5:47PM
羽田空港を発着する国際便が3月30日から拡充したことを受け、航空各社がマスコミや電車内など各方面に広告を打ち出している。その筆頭が、一度は経営破綻したものの公的資金によって再生した日本航空(JAL)だ。
4月16日の参議院政策審議会では、JALと全日空(ANA)など競合他社の間にひろがる経営体力差、JALが目下法人税を払っていない状況を生んでいる繰越欠損金制度の是非、JAL再上場(2012年)時のインサイダー疑惑などが議論の俎上にのった。 政府からは、国土交通省航空局、内閣府(企業再生支援機構担当)、財務省主税局、公正取引委員会などが出席した。
状況を説明したのは自民党の西田昌司参議院議員。10年に経営破綻したJAL再生のための過剰支援により航空業界全体の競争環境が歪められている実態を指摘した。
西田氏は本誌にこう語る。
「JALとANAの経営体力に圧倒的な差がついてしまっている。このまま市場の原理に任せておけばJALがANAの株を買いしめる事態も起こりうる」
13年度の当期純利益(見通し)は、JALが1480億円(最終利益率11・4%)、ANAが150億円(同0・94%)で、その差は約10倍にも達する。国内航空大手2社の間に、10倍以上の差があるのはいかがなものか。借金もANAが約1兆円であるのに対し、JALは実質無借金状態。両社の経営体力差はひらく一方である。
税免除は4000億円
しかもJALは10年に破綻した後、会社更生法の繰越欠損金制度の適用を受けることになっている。同制度は、企業再生の過程で出た赤字を、翌期以降の黒字(課税対象部分)と相殺できる仕組みで、JALはこの制度を利用することで毎年1500億円前後の純利益をあげながら18年度まで法人税を払わずにすむのだ。その額は計4000億円にのぼる。
当然、この日の政審では批判がとんだ。過去に遡って納税させるのは無理があると主張する財務省に対し、自民党の脇雅史参議院幹事長は「行政が知恵を出さなければおかしい」と一蹴。西田氏も「健全な競争環境がゆがめられている。政治の力で是正する必要がある」と、議員立法に言及した。
西田氏はまた、JAL再上場時のインサイダー疑惑を問うた。
JAL再生では、企業再生支援機構が3500億円を投入したものの、会長(当時)の稲盛和夫氏は「自己資本が足りない」として第三者割当増資を要請。その結果、稲盛氏が創業者でもある京セラが50億円、大和証券が50億、その他損保業界などが計27億円の増資を引き受けることとなった。
「企業再生支援機構は、再生する企業の自己資本が足りない場合、国が追加出資に応じたり融資することを定めており、第三者が増資を引き受ける必要はないはず。にもかかわらず、翌年に上場することがわかっていながら京セラや大和証券は出資に応じた。コンプライアンスの観点からこうした出資は許されないはずだ」(西田氏)
『腐った翼JAL消滅への60年』(幻冬舎)の著書があるノンフィクションライターの森功氏も「京セラや大和は出資するべきではなかった。インサイダーの疑いはぬぐいきれない」と指摘する。
JALとANAの体力差について森氏は「事業再生のスタート地点から公平性を欠いていた。事業を縮小させることなしに国の公的資金で再生し、再上場してしまったために歪んだ競争環境が生まれている。JALは国際線からも撤退するべきだったが、稲盛さんの政治力がものを言い、そうはならなかった。不採算路線までカットしたが、一方のANAは不採算路線にも飛ばしつづけている。この先JALがANAを買収するなどということになれば、日本の信用力にも打撃になる」と話す。
国土交通省や財務省が確たる対策が打てない中、自民党参議院では議員立法の動きが出てきそうだ。政治の力でどこまで対処できるかが今後の焦点となる。
(野中大樹・本誌編集部、4月25日号)