憲法記念日に全国で“壊憲”反対の声――平和憲法なし崩しへの危機感
2014年5月26日6:33PM
「憲法解釈を変更して、集団的自衛権の行使を容認する」シナリオ作りを安倍政権が着々と進める中、日本国憲法が1947年に施行されてから67年を迎えた5月3日、「護憲派」と「改憲派」双方の動きは例年以上に活発だった。
【「募る不信感」】
東京の日比谷公会堂で開催された「5・3憲法集会2014」には約3700人が詰めかけ、屋外には大型ビジョンも設置された。実行委の高田健さん(許すな!憲法改悪・市民連絡会)は集会の冒頭で、「安倍首相は私的諮問機関・安保法制懇(安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会)で、自らの都合のいいように憲法を破壊しようとしている。これに対し、全国で改憲反対の声が上がっている。この運動は絶対に負けられない」と主張。参加者らはその後、銀座周辺で「生かそう憲法」「輝け9条」などと幕を掲げ行進した。
大阪市内で開かれた「2014憲法記念日のつどい」には約3000人が来場した。主催の「九条の会・おおさか」は「守ろう憲法9条」と記した配布用サンバイザーを2000個用意したが即品切れ。「例年は1000人規模だが今年は違う。参加者の強い“危機意識”が感じられた」と、事務局の永廣紀美子さんは語気を強めた。
京都府の「憲法集会」(憲法9条京都の会主催)も約2300人が結集。参加者の荒井康裕さん(『週刊金曜日』京都読者の会世話人)は「京都ではXバンド・レーダー(TPY-2レーダー、米軍の弾道ミサイル探知レーダー)の配備などきな臭い話があり、軍事強化への懸念が市民間で高まっている」と話す。主催事務局次長の寺内寿さんは「今回は20代の若い人たちの協力も得て運営した。世代を超え、憲法改悪の阻止に向けた活動を続けていく」と、幅広い年齢層に“危機意識”が広がっていることを強調した。
辺野古地区への米軍普天間基地移設や八重山地区教科書問題などを抱える沖縄県の憲法講演会には約1400人が参加し、立ち見が出るほどの盛況となった。主催した沖縄県憲法普及協議会の高良鉄美会長(琉球大学教授)は、全国で「護憲派」の動きが活発化している背景をこう分析する。
「TPP(環太平洋戦略経済連携協定)など外交上の課題にせよ、安全保障上の問題にせよ、一部の人びとの意思で物事がどんどん決められている。民主的な手続きを踏んでいないという不信感が国民の間に募っているのでしょう。
『大事なことはみんなで決めよう』と説くのが憲法の理念であり、これに従い主権者が現在の政局に異議を唱えている。それが今年、各地で盛り上がりを見せた護憲集会の特徴と言えます」
【編集委員も各地で講演】
本誌編集委員も憲法記念日に各地で講演活動を展開した。
千葉県の松戸市民会館ホールで開かれた「松戸憲法記念日の集い」には10代から80代まで1200人を超す市民が参加。登壇した落合恵子編集委員は、「今の政権は平和について憲法について、人権について、(憲法の理念と)まったくちがう方向に走り続けようとしている」として、「一人一人が自分に問いかけよう、“私”にとってももっとも大事なものは何か。かけがえのないものは何か」と熱弁を振るった。
「フォーラム平和・人権・環境」主催の「いま『戦争をさせない』決意を新たに 施行67周年 憲法記念日集会」(東京・千代田区)では、鎌田慧さん(ジャーナリスト)、小室等さん(シンガーソングライター)ほか佐高信・雨宮処凛両編集委員が登壇し、クロストークを繰り広げた。
雨宮編集委員は福一原発事故の被害者との関わりや生活困窮者の実態に触れ、憲法と生活者の間に乖離が生まれていることを指摘。「その溝をいかに埋めていくかが重要な課題」と語った。
宇都宮健児編集委員も、かごしま県民交流センター(鹿児島市内)で開かれた集会(2014年憲法記念日市民のつどい実行委員会主催)に出席。中島岳志編集委員は、神奈川県の「2014憲法を考える5・3県民集会――岐路に立った私たち 岐路に気づかない私たち」(かながわ憲法フォーラム主催)で講演した。
【集会拒否の自治体も】
一方、本誌3月14日号アンテナ欄でも紹介したように、憲法集会の後援申請を、神戸市および神戸市教育委員会が断るという事案も発生している。同委員会は「政治的中立性を損なう可能性」があるとしているが、憲法21条が保障する「表現の自由」を侵害するものではないかとの意見も出ている。
これまで幾度となく護憲や反戦関連の集会を企画してきた柴田正己さん(堺市在住・昭和の庶民史を語る会代表)は、これに近い「不穏な空気」を日々、肌で感じているという。
同地区内の公共施設を利用する際、柴田さんは「自治体側から集会の内容を事前に問われることが増えた」と話す。「戦争や現政権への批判などを題目にすると難色を示される」のだと言う。「こうした状況を胸中では『おかしい』と感じても、ほかの主催者はなかなか口に出せません。苦情を言って、今後の施設利用に支障が出ると困りますから」――。
青井未帆さん(学習院大学教授)は「表現の自由は萎縮効果を受けやすく、もろくてこわれやすい権利」と話す。「地方自治法でも、市民会館のような施設について、正当な理由がない限り利用を拒んではいけないことが定められている。最高裁判決が泉佐野市民会館事件(1995年)で示したように、正当な理由のない利用拒否は、憲法の保障する集会の自由への不当な制限となりうる。自治体側の安易な判断で申請を拒むなどあってはならない」として、「何かを表現するとき度胸を試される社会こそいかがなものか」と首をかしげる。
【民主党議員が「改憲」発言】
安保法制懇(柳井俊二座長)は今週中にも、現行の憲法解釈を改め、集団的自衛権の行使を容認する旨の提言を報告書として政府与党連絡会議に提出する見通しだ。
民主党の海江田万里代表は3日、「立憲主義に照らし、『集団的自衛権の行使は憲法9条違反』だという従来の政府見解の変更は許されない」などと話した。だが遡ること1日の「改憲派」集会では、同党の議員が党の見解を批判する旨の発言をしていたことも発覚している。
新憲法制定議員同盟(中曽根康弘会長)が東京・永田町で開いた「新しい憲法を制定する推進大会」には「民主党改憲派」を自任する長島昭久元防衛副大臣が出席。「解釈変更の閣議決定が出たら、立法府は立法措置をとらなければならない」と力説した。
同大会には改憲派の国会議員や財界人ら約600人が出席しており、船田元衆院議員(自民党)は「国民投票法改正案(「改憲手続き」を規定)の与野党8党合意の枠組みを使い、日本国籍のある改正原案を作っていく」と宣言した。これを受ける形で9日には同改正案が与野党7党(自民・公明・民主・維新・みんな・結い・生活)の賛成多数により衆議院本会議で可決している。
このほか、民間憲法臨調主催の「国家のあり方を問う――憲法改正の早期実現を――」と題するフォーラムも3日に都内で開かれ、先述の船田元氏(憲法改正推進本部長)、百田尚樹氏(作家)、櫻井よしこ氏(同会代表・ジャーナリスト)らが登壇、約1000人が来場(主催者発表)した。
こうした「壊憲」の動きが加速する中、この国の最高法規の生命をかけた「護憲派」の闘いは、正念場を迎えている。
(編集部+取材協力/吉田敬三・フォトジャーナリスト、永野厚男・ライター、5月16日号)