今国会で派遣法“改悪”の可能性も――企業重視で派遣労働者増加か
2014年5月27日4:33PM
「世界で一番、企業活動がしやすい国」を目指す安倍首相のもと、今国会で労働者派遣法の改正案が審議されている。政府は、「派遣労働者の均衡待遇の確保」を目的に掲げているが、実際には派遣労働から抜けられなくなる企業重視の「改悪」だという意見も多い。一体、どんな法案なのか。
日本労働弁護団前会長の宮里邦雄氏はこう指摘する。
「改正案の最大のポイントは、派遣会社に無期雇用されている派遣社員の受け入れ期間に、制限を設けていないことです。また、たとえ有期派遣であっても、永久に受け入れを延長することが可能になることです」
現在の派遣法では、通訳業など専門性の高い26業種は派遣期間に制限を設けていない。一方、それ以外の業務で派遣の受け入れが継続して許されるのは最大3年までだ。だが、改正案では26業種の枠を撤廃し、代わりに派遣労働者が派遣会社に無期雇用されているかそうでないかに分けた。
無期の場合には、受け入れ先の企業で無期限に働けるようになる。また、有期契約の同一派遣労働者が同じ職場で働けるのは3年が限度だが、「人を変えさえすれば」、企業は何年でも派遣労働者を受け入れることが可能になる。自社の労働組合から意見を聞けば、3年ごとに延長が認められる仕組みにするからだ。
現行の「派遣受け入れは最長3年」の制限をなくし、企業の派遣労働の利用が増えれば、派遣労働者の雇用が安定するようにも思える。だが、宮里氏は違うと言う。
「派遣労働は最も好ましくない労働形態で、ILO(国際労働機関)も、労働は商品ではないと定義しています。そもそも、派遣法を正当化する根拠は、正規雇用に取って代わる仕組み(常用代替)を作らないということでした。それが次第に業種の範囲も期間も拡大し、今回の改正案では『派遣労働野放し法』になってしまう。これでは派遣労働者の保護はできません」
つまり、本来あるべき雇用形態は、労働者と企業の間で期間の定めを設けずに雇用契約を交わすもの。それが派遣という形に取って代わると、労働者の雇用は不安定になるということだ。
事実、2008年のリーマン・ショックの際には、企業の都合で簡単に派遣切りが行なわれた。また、正社員と派遣社員の間に均等待遇の原則が成り立たない日本では、派遣労働者の給料は格段に低い。今回の派遣法案が成立してしまうと、低賃金のまま生涯派遣を続けなくてはならない土壌を作ってしまう恐れがある。
【「まじめに」働けない】
こうした企業重視の派遣法案に批判の声を上げているのが、労働者保護を叫ぶ弁護士グループや、連合(日本労働組合総連合会)、全労連(全国労働組合総連合)、全労協(全国労働組合連絡協議会)といった組織だ。4月18日には、日本労働弁護団が主催する反対集会が東京都内で開かれ、派遣労働者ら220人以上が集まった。
集会に参加した民主党の山井和則衆議院議員は、「正社員を雇う会社がどんどん減り、いまの正社員さえもいずれ派遣に変えられることになる。安倍首相は賃金を上げると言いながら、派遣を進めるなど、言うこととやることが別です」と、警鐘を鳴らした。
このほか、非正規労働者の権利実現全国会議は、ネット上で反対署名(URL http://haken.hiseiki.jp)を呼びかけ、5月13日現在で4335筆の署名が集まっている。
そこには、次のようなコメントも数多く寄せられている。
「(派遣法改正は)派遣社員の働き方を『他人事』と思っていた正社員と呼ばれる人たちの働き方を大きく変えることになる」「どんなに働いても3年で解雇されるようになれば、まじめに働くのがバカバカシイと考える人が増える」
しかし、国会が自公で圧倒的多数を占める現状では、今国会での法案成立の可能性が高い。日本労働弁護団会長の鵜飼良昭氏は「歴史の流れに逆行する法案をなんとしても食い止めたい」としている。
(桐島瞬・ジャーナリスト、5月16日号)