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沖縄県竹富町、法改定で単独採択可能に――予断許さない八重山教科書問題
2014年6月11日6:43PM
「今回の騒動で竹富町は利用されていたのかもしれない」――。
中学生向け「公民」教科書の採択をめぐり、竹富町教育委員会(慶田盛安三教育長、以下、竹教委)が該当法の条件を満たしておらず「違法状態」にあるとされていた八重山教科書問題で、沖縄県教委(宮城奈々委員長)は5月21日、定例会で竹教委を教科用図書八重山教科書採択地区(以下、共同採択地区、ほか石垣市教委・与那国町教委)から分離し、今後は、単独採択地区とすることを決定した。
冒頭の該当法とは「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」(以下、無償措置法)のこと。この一部改定案が参議院本会議で4月9日、賛成多数(自民
・公明・維新、みんな)で可決され、竹教委の離脱が可能となった。同教委もその意向を示したため県教委が判断。文科省の担当(初等中等教育局企画係)によると、「違法状態は解消される」という。
下村博文文部科学相は5月23日の会見で、「採択地区の設定は地域の自然的、文化的、経済的な諸条件や、教科書の調査研究体制の有無等を考慮して行なうべき」であるして、今回の「変更は法の趣旨を十分に踏まえたものとは言いがたく、遺憾」との見解を示した。
5月20日には玉津博克教育長(石垣市)が文科省で上野通子政務官と面会。「八重山地方は教育だけでなく、行政や経済も一体」で、「竹富町の単独採択は理解できず、好ましくない」と“直訴”した。
玉津氏は本誌に「国や沖縄県が決めることに私たちが反対・賛成などと言う立場にはない」としつつ、無償措置法の改定は「基本的に良いこと」と肯定する。
一見、竹教委に有利に働いたかのように見える今回の法改定だが、文科省その他「保守系」文教族にとって、何が「良いこと」なのか?
【法改定の思惑は……】
そもそも、「矛盾多い教科書の共同採択制度」(筆者は藤岡信勝氏/05年8月4日『産経新聞』)など、「採択地区の分割」を求めてきたのは「つくる会」系側だった。竹富町の“ごり押し”に見せかけて、自分たちの支持自治体の拡大を狙う法改定の意図が透けて見える。
無償措置法の改定は文科省の「教科書改革実行プラン」(13年11月15日)に基づいて行なわれた。骨子は、(1)共同採択の際の構成市町村による協議ルールを明確化する(2)「市郡」単位となっていた採択地区の設定単位を「市町村」に柔軟化する(3)採択結果や理由など、教科書採択に関する情報の公表を求める、といったもの。
(2)を巡っては今後、竹富町以外の各地でも、単独採択地区としての「独立」や共同採択地区の再編など、見直しの加速が予想される。
一市二町から成る八重山諸島では2011年8月、中学生向け「公民」教科書の採択に際し同採択地区協議会総会で「つくる会」系の「育鵬社」版教科書が選定された。だが、これを推す石垣市・与那国町両教委に反対して竹教委は「東京書籍」版を採択(本誌13年10月25日号参照)。3教委が平行線を辿る中、同年9月、共同採択地区の教委全員による八重山教育委員協会臨時総会は「育鵬社」版を不採択とし、「東京書籍」版を採択した。しかし、この協議も文科省は無効と判断。以後、竹富町は無償措置法の適用外とされた。
慶田盛教育長(竹教委)は離脱にあたり、「私たちの主張は一貫している」と話す。「無償措置法第13条の4項には、地区内に複数の市町村がある場合、同一教科書を使用するとあった。一方、地方教育行政法第23条の6項は、各市町村の教委に教科書採択の決定権があるとしている。二つの法律が矛盾していたのです」。
石垣市教委の前教育長で現在、「子どもと教科書を考える八重山地区住民の会」共同代表の江川三津江氏は「今後の動きを注視したい」と慎重だ。「歴史認識の改変や愛国心などを盛り込む道徳の教科化、首長が国の方針をもとに『教育大綱』を決定し、教育委員会を従属させる教委制度改定など、一連の動きのなかで今回もとらえる必要がある」と言う。
(内原英聡・編集部、5月30日号)
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